第二章:アルヴヘイム・オンライン
第二十二話:傷痕
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瞳が邪魔をするのだ。全てに達観したようなあの瞳が、まるで自分を、いや、全てを拒絶しているようで。
SAO生還者は皆、どこか浮世離れした表情を見せる人が多い、というのは最近よく聞く話だが、縺の場合はそれが顕著だ。二年前まで見せていた少年らしさなど殆ど影に隠れ、今、木綿季に見せるのはいつもどこか寂しそうな顔ばかり。
「――それはそれで格好いいんだけどなぁ……
そういう問題じゃないもんね」
明らかに、縺は父母の死に負い目を感じている。責任感が人一倍強いあの義兄のことだ、想像するのは容易だ。それに加えて、目の前で、藍子が逝ったのだ。今の彼の心理状態は最悪だろう。
「ボクは、なんにもできないんだなぁ――」
勿論、木綿季が心に傷を負っていないはずはない。家族が三人もいなくなってしまったのだ。胸にポッカリと穴が空いたような虚無感は、未だ拭えない。
それでも、縺は帰ってきた。生還は絶望的だと言われていたあの死の檻から脱出して見せた。
オレは下層でじっとしていただけだから、とは本人談だが。彼が、自分の義兄が、生還した全プレイヤー約6000人の中で最もレベルが高い、トップの中のトッププレイヤーだということは総務省の人から教えられて知っている。そうでなくとも、木綿季が傍にいられた短い時間だけでも心拍数が跳ね上がることがままあったのだ。何より、もし下層に留まったままだったというなら、ALOで見せたあの強さの説明がつかない。彼が最前線で、皆の期待を一身に背負いながら戦っていたのは、疑いようもない。
木綿季にとって世界とは即ち家族の事だった。仲のいい両親に、優しい双子の姉、そして不器用だけど頼りになる義兄。彼らがいるだけで、木綿季は自分の抱える病にも勝てると思っていた。いや、その家族の大半を喪ってしまった今でも、そう思っている。不安で、恐怖で押し潰されそうになった時、義兄は帰ってきた。
それだけで、木綿季の中にあった不安は掻き消えた。ただいまと告げて、頭に乗せられた弱々しい腕の温もりが、木綿季を救ったのだ。
「……兄ちゃん」
縺が生還してから約一か月が経った。脳とナーヴギアの接触不良の障害を受けていた縺は他の生還者よりも長く入院し、リハビリすることになったため、彼は今日、この家に帰ってくる。木綿季がお金の事しか考えていない親戚たちから守り通した、この家に。
ガチャリ、と扉が開く音。木綿季はベッドから飛び起きた。
そう、今の木綿季が兄にしてやれることはほとんどない。彼の心の隙間を埋めてやれるナニカを、彼女は持ち合わせていない。
それでも、諦めるなど、自分らしくない。胸の内に抱いた感情は、秘めたままでは伝わらない。
ならば言葉にするまでだ。鋭いのか鈍いのかよくわ
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