EX回:第52話(改2)<空しい勝利>
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ぜか私は、あの武蔵様を思い出した。彼女は何本も魚雷を受けてもビクともしないだろう。
だが比叡級では魚雷一発でもダメージは大きい。
何処と無く、全てが隙だらけだ……まぁ初陣では仕方ないが。
(油断しすぎだぞ)
「ひええええ〜〜〜!」
幾重もの水柱に包まれる比叡。
水蒸気が晴れると、ボロボロになった比叡が立ちすくんでいた。
一隻が大破か?
さらに、こちらの金剛と比叡が相手の残りの比叡へ向けて砲撃を開始する。逃げ惑う別の比叡。
思わず美保の金剛が叫ぶ。
「No! あまり動いちゃダメねぇ」
「演習だからっ! お願い!」
同じく、こちら側の比叡の声。
しかし相手を諭しながら砲撃する構図というのも妙だ。
美保の艦娘たちは既に未来のブルネイで模擬戦は経験済みだ。
その為か、意外に手練なのだ。
もちろん砲撃の外し方も、絶妙ではあるが、いかんせん相手が素人過ぎる。もはやブルネイの、もう一人の比叡は恐怖にかられて逃げることしか頭にない。
一方、また別の声が無線に入る。
「いや、ちょっと……ごめんなさい」
「伊勢っ、逃げるな! そんな……大丈夫だから……」
この声は日向か? 逃げ惑う伊勢にだろう、必死に叫んでいる。
(そうか、初顔合わせで量産型とはいえ、いちおう姉妹だよな)
伊勢型は、そうだ……私はそんなことを考えた。
一方の龍驤も逃げ回っている。
「ウチは死にとうないっ、死にとうないんや!」
もはや半狂乱だ。
「だ、誰もそこまでは……演習だし」
さすがの赤城さんも戸惑っていた。だが急に攻撃も止められない。逃げる龍驤の周りには、いくつも水柱と火柱が立ち上る。
「嫌や〜!」
声が通るだけに、余計に悲壮感が強調された。
弱い者いじめ……というより、もはや拷問に近い。
相手が深海棲艦ならまだしも同じ艦娘で、この反応は攻撃するほうが辛くなってくる。
海上は水柱と砲撃の煙で視界が悪くなっていた。
埠頭で見ていた吹雪も、ただオロオロしている。もはや彼女も、どう対処して良いのか分からない状態だ。一方の五月雨は両手で顔を覆っていた。
(いったい何なんだ? これは)
これほど見ていて辛い演習があったか?
ブルネイや技師、それに技術参謀までが苦虫を潰したような表情だ。
既に誰もが無言になっている。
やがて渋い顔のブルネイが技師にささやいた。彼は頷くと無線担当に指示していた。
直ぐにブルネイは私たちを振り返った。
「美保の艦娘たちが我々の旗艦を撃沈した。既に勝負はあった……演習はこれまでだ」
あっけない……いや、空しい勝利だ。
私は、胃が痛くなってきた。
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