巻ノ百三十二 講和その五
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「茶々様のお言葉ですから」
「だからと言われるのですか」
「左様、ここは主のお言葉を聞かれて」
そうしてというのだ。
「講和すべきですぞ」
「何でも主命でござるか」
木村は有楽を睨みつけて問うた。
「そう言われるか」
「左様、それが武士ではありませぬかな」
「忠義だというのですな」
「そうではありませぬか」
「違いまする」
断じてと返す木村だった。
「武士は主の過ちを諫めるもの」
「だからでありますか」
「ここは諫め」
茶々、彼女をというのだ。
「講和なぞせぬことです」
「そうですぞ、ここはです」
治房も有楽に言う。
「戦です、絶対に」
「断じてですか」
「そうすべきです」
「いや、待て」
大野がここで断を下した様に言った。
「やはりな」
「ここはと言われるか」
「講和じゃ」
こう諸将に告げた。
「それでお願い致す」
「それでは決まりですな」
有楽は他の諸将が何か言う前に言った。
「それでは修理殿」
「はい、これより幕府に使者を送り」
「常高院様が受けて下さいますぞ」
「あの方がですか」
「既に大坂にお呼びしていますので」
万事に抜かりのない有楽だった、こうなる様にしてそのうえで茶々のすぐ下の妹であり秀忠の妻であるお江の姉である彼女を呼んだのだ。
「では」
「丁度いい、それでは」
「講和ということで」
こうしてだった、大野はその常高院を呼びそのうえで彼女を茶々のところに案内した、すると常高院は大野と共に姉に会いすぐにこう言った。
「講和されますか」
「そうじゃ、そなただから言える」
妹に切羽詰まった顔で言うのだった。
「ここは講和じゃ」
「そうされてですか」
「戦を終える、よいな」
「それはよいのですが」
常高院は姉の言葉を受けて心配する様に言葉を返した。
「私から申し上げることがあります」
「何じゃ?」
「はい、講和されたらです」
こう姉に言うのだった。
「姉上は私と一緒に住みませんか」
「そなたとか」
「はい、そうして頂けますか」
「というとそなたが大坂に来てくれるのか」
茶々は妹の言葉をこう受け取った。
「そうされるのですか」
「それは」
「違うのか」
「いえ、ではこのまま大坂におられますか」
「わらわのおる場所はここしかおらぬ」
妹に強い声で返した。
「違うか」
「そう言われますと」
「他の何処があるのじゃ」
「いえ、ですから」
「あの、常高院様」
大野が戸惑う常高院にそっと言った。
「ここは」
「わかりました、では」
「その様に」
眉を曇らせての言葉だった。
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