巻ノ百三十二 講和その四
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「ここで講和をすれば幕府の思う壺ですぞ」
「講和なぞせずにです」
「かえって攻めましょう」
「奥御殿のあれはたまたまです」
「何でしたら茶々様には天守に移ってもらいましょう」
「あそこなら砲なぞ届きませぬぞ」
「修理殿、なりませんぞ」
後藤も大野に強く言ってきた。
「ここでの講和は」
「後藤殿もそう考えておられるか」
「はい、講和なぞしては」
それこそというのだ。
「幕府の思う壺です」
「だからじゃな」
「逆にうって出るべきです」
それがいいというのだ。
「ですから」
「そう言われるか、しかしな」
「茶々様はですな」
「違うお考えじゃ」
諸将とはというのだ。
「講和じゃ、ではな」
「修理殿、まことにです」
今度は幸村が大野に言った。
「ここで講和をしては」
「幕府にじゃな」
「何を言われるかわかりませぬぞ」
「それは拙者も思うが」
「ならば茶々様を説得されて下さい」
「何ならそれがしが行きまする」
治房はもう席を立たんばかりだった。
「そして茶々様にお話します」
「それがしもお供しますぞ」
治胤は次弟に従った。
「それでは」
「若し有楽殿がまた出られるなら」
木村は二人以上に激昂していた、それで白い整った顔が赤くなっている程だった。
「それがしが止めます」
「ではその間に我等が」
「茶々様にお話します」
「だからそれはならんと言っておるのだ」
大野は逸る彼等に強く言った。
「茶々様がそうお考えならじゃ」
「我等は聞くのみと言われますか」
「左様」
長曾我部にも苦い顔で答える。
「わかって頂けよ」
「ここで講和は心中の様なものですぞ」
明石も顔が蒼白になっている、それだけ今ここで幕府と講和すれば深刻なことになってしまうというのだ。
「それでも宜しいか」
「この戦負けますぞ」
毛利もこう見ていた。
「それでも宜しいか」
「我等で一気に打って出ましょうぞ」
塙は聞けぬという態度すら見せていた。
「講和は断じてなりませぬ」
「右大臣様はどうお考えですか」
治房は大野に表向きの主のことを問うた。
「一体」
「講和は早いのではと言っておられる」
「ではです」
「右大臣様のお考えでか」
「行くべきです」
是非にと言うのだった。
「そうしましょうぞ」
「だから茶々様が言われておるからな」
「兄上はいつもまず茶々様ですが」
治房も引き下がらない、まだ言う。
「どうかここはです」
「講和ではなくじゃな」
「戦です」
こう言って引き下がらない。
「どうか」
「いやいや、それはなりませんぞ」
ここで別の者の声がした、有楽が場に来た。その傍には長頼もいて親子共にいる形となっている。
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