第二十五話:生存者
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ンス・イイジマ一等兵改め編田羅赦は、ワイバーン・リーダーの血と脳漿がこびりついた鉈を近くの木の葉で拭った。粗方拭い終えると、鉈は光の粒子と化して消滅した。彼の胸部に埋め込まれた忌々しいコアに格納されたのだ。
新たな生命を啜れたことに狂喜しているのか、リズミカルに脈動するソレを忌々しげに一瞥すると、ラシャは茂みに隠した自らの装備を回収し、未だ地面を蠢いている泥のようなもの──手懐けたVTシステムの残滓──に向けて手を伸ばした。すると、泥は飼い主を前にじゃれつく犬のような勢いで腕に絡みつき、皮膚に沈み込んで吸収されてしまった。
刹那、ラシャの脳裏に様々な情報が五感を通して流れ込んできた。手を通して伝わるワイバーン・リーダーの部下達の首を折った感覚。鼻を通して伝わる今際に吐かれた吐瀉物と煙草の臭い。│耳《聴覚》を通して伝わるくぐもった断末魔の声、祈りの声、家族の名前。
「っ……」
あまりの情報量の多さにラシャは重度の目眩を起こし、膝をついた。嘔吐したかったが出来なかった。痕跡を残したくないという理由もあるが、一番の理由はソレではなかった。
「今更ヒトに戻れるかよ」
──泣きわめく訳にはいかない。なぜならたくさん泣かせてきたから。悔いる訳にはいかない。なぜならもう後戻りが出来ないことはとうの昔に解っているから。
なんとか立ち直ったラシャは、倒れているクラリッサに近寄った。弾は貫通しているが、出血がひどく、下手をするとショック症状で死んでいても可笑しくはない状況にあった。
ラシャは兎に角治療をすべく、ファーストエイドキットを引っ張り出すと出血を止め始めた。素人の手腕にしては上々の出来だったのか、止血は簡単に終わった。
「違和感の正体が漸くわかった。陸軍第291猟兵大隊は、2010年からずっと海外で任務に従事している……国内で任務につくなんてありえないんだ」
クラリッサが口を開いた。弱々しい声だが、瞳はまっすぐにラシャを見据えていた。
「イイジマ一等兵。君は、何者だ……?」
ラシャは暫しの沈黙の後、照れくさそうに微笑みながら口を開いた。
「殺人鬼だ」
数日後、黒兎部隊の正式な解体が行われ、部隊が所持していた全てのISが回収され、再分配された。しかし、隊長機であるシュヴァルツェア・レーゲンのコアは確認できず、隊長機の紛失による責任を取ってかドイツの国防次官の一人が拳銃自殺し、大規模な人事の入れ替えが起きた。
そして、黒兎部隊副隊長クラリッサ・ハルフォーフ大尉の行方は未だに掴めていない。
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