第二十五話:生存者
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らにして走馬灯のようなものを見ていた。──初めて自我が芽生えた瞬間、血を見た瞬間。誕生日にプレゼントされた絵本。鈍色の銃。いけ好かない隣人。お気に入りのコミック。電球の切れたシャワールーム。そして、ISとの出会い。産まれてから今日の今日まで積み重ねてきたモノ全てが、土足で踏みにじられてしまったかのようだった。
「どうします?」
ハンスの声でクラリッサは我に返った。逆光に照らされて表情は全く伺えないが、その眼光だけは爛々と輝いていた。何度も見た輝き──教官だった織斑千冬が幾度となく見せていた──試すような色を含んだ威圧的な眼差しが寸分の狂いなく此彼女を射抜いていた。
「どうしたんですか?」
息ができない。瞼も見開かれたまま凍りつき、瞳が痛みとともに緩やかに乾いていく。全身が壊死していくかのごとく、クラリッサの体が末端から感覚を失っていく。それを見越しているかのごとく、ハンスは歩み寄る。只々歩いているにも関わらず、その歩みは肉食獣のそれに酷似して見えた。
ハンスとクラリッサの間隔があと数歩に迫った瞬間、稲妻のような銃声が轟いた。同時に、クラリッサの胸から僅かばかりの肉片を伴った鮮血が、噴火のごとく飛び散った。
「!」
ハンスは表情を変えること無く身を翻すと、近くの茂みに身を隠した。しばらく銃弾の雨が降り注ぐと、真っ黒なコンバットスーツに身を包んだ男たちがゆっくりと現れた。手に持ったアサルトライフルや腕章の類から、ドイツ軍の所属ではなくPMCといった、雇われ兵の人間であることが予測できた。
ISによる女尊男卑が浸透して以来、軍縮を声高に叫ぶ勢力の台頭によって職を追われた軍人が急増し、意図せずしてフリーランスとなったところをPMCの様な民間企業が役職を問わず大量に雇い入れたのだ。
彼らの能力は総じて高く、女尊男卑によるゴリ押しによって後釜に座った正規兵よりも有能なものも多かった。それにより国内犯罪率の増加に伴って治安維持の為に国に再雇用されるという頓珍漢な出戻りを果たす者も居たが、この場に居合わせた輩はその機会からも零れ落ちた存在である。その一挙手一投足は極めて厳しい訓練課程を高い成績で修了したもののそれだが、心中は様変わりしすぎた世間によって擦り切れており、戦争協定から逸脱した行為も厭わぬ不定の徒と化していた。
隊員の一人が、鉛玉を叩き込んだクラリッサに歩み寄る。急所を射抜いていなかったのか、さほど出血はひどくなく、撃たれたショックのせいか意識を失っていただけだった。
「死に損なったか、気に食わん」
自然と口から呪詛が漏れた。彼は嘗てそれ相応の武功を立てたが、ISの登場によって職を追われた数多くの兵士の一人だった。
──いたずらに現場をかき回しておきながら、何一つ終わらせることの出来ないお遊
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