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歌集「冬寂月」
三十三

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 夜も更けて

  こゝろ侘しき

   花冷えの

 音もなかりき

    春雨ぞ降る



 桜も終ろうかと言う時期だが、随分と冷え込む夜だ…。

 寒さは気を弱らせるのか…あれこれと物思いに耽ってしまう…。

 耳を澄ませばぽたぽたと、雨垂れの落ちる音がする…。

 あぁ…雨が降ってるのだなと気づく…。

 まるであの人をふと思い出すような…不思議な感じがした…。



 花ぞ散り

  若葉生ふるや

   春風に

 揺れて落つるは

    淡き木洩れ日



 もう花も散り、若葉が覆う…。

 少し前には桜が風に揺れ、雪のように花弁を散らしていたが…。

 今は新緑の下に木洩れ日が落ちる…。

 時間は過ぎ行くものだ…恋も想いもいつかは淡く掠れ、遠く滲むものかも知れないな…。




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