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越奥街道一軒茶屋
尸蝶の夢
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、その蝶を見られるかもしれねえってな」

「それで、蝶は?」

 話の続きが気になって、あっしはちょいと被り気味に言ったんです。
 したら旦那は、首を横に振った。

「もしかしたら、縁深い奴にしか見えねえものだったかもしれねえなって思うんですよ」

 旦那は、そう話を締めくくりやした。
 あっしも旦那も、次に出る言葉が浮かばずに少し黙ってたんですよ。
 一途というか、憑りつかれてるというか、旦那がどっちなのかよくわからない。十年も同じものを目指し続けるってのはすごいことだとは思うんですがね……。

「想いってのは、何かを引き寄せるもんなんですよ。だから、旦那にもきっと何かがあると思いやす。一介の茶屋の主人が何言ってんだって感じですがね」

 そう言ってみると、旦那は軽く肩を竦めるんです。

「まあ、信じてやってみるしかないわなぁ」

 そして、茶を飲み干した。

 旦那は棺を背負うと、あっしに分かれを告げて店を後にしやした。独特の雰囲気がある背中でしたねぇ。

 旦那が見えなくなってから、片付けをしようと振り向いたんですが、縁台の上に、一匹の蝶が止まってやした。

 黒くはなかったんですけどね。
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