2部分:第一話 はじめましてその二
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第一話 はじめましてその二
「今だっていつもだって」
「だってさ。その方が可愛いし」
えっ!?
「女の子はね。低い方がさ」
「な、何言ってるのよ」
何か。怒る気が失せてきました。何かこれもいつものような。
「阿波野君、そんなこと言っても私は」
「それでさ、先輩」
急に話を変えてきました。これもいつものことだったりします。何かにつけ本当に調子がいいんです。全く困ったものです。
「実は神殿について来て欲しいんだけれど」
「神殿に?」
天理教の神殿のことです。天理駅から商店街を昇ってその終わりに見えてきます。とても大きな神殿で最初見た時は何かと思ったりもしました。
「主任先生が先輩呼んで欲しいっていうから」
「それ早く言いなさいよ」
いつもいつも。何で大切なことを言わないのよ、本当に困っています。
「それで。主任先生は何処?」
「だから俺が案内するから」
「いいから。早く行かないと」
「だってさ。一緒に来てくれって言われたから」
「えっ!?」
今度は思わず声が出ちゃいました。意外な展開でしょうか。
「一緒に?阿波野君と私が?」
「うん。主任先生がそう言っててさ」
「何かしら」
首を捻らずにはいられません。主任先生は土井先生という方でとても真面目で温厚な人です。長い間ある教会の教会長をしてらして皆から一目置かれています。ちなみに天理教ではキリスト教みたいに教会って呼びます。大教会があってその下に分教会が何段階かであるんですよ。私の実家もそうした教会の一つです。
「二人でなんて」
「夫婦揃ってってやつかな」
「それはみかぐらうたでしょ」
みかぐらうたは天理教の教典の一つです。十二の歌からなっていていまして今彼が言ったのはそのうちの一節なんです。
「それに私新一君の奥さんじゃないし」
「じゃあお姉さん?」
「馬鹿言いなさい」
年下だからって。何を言い出すのやら。いっつもいっつも。
「私は妹が二人いるけれど弟はいないのよ」
「俺弟がいるけれど」
「そんなこと聞いてないでしょ」
聞いていないのに言うのがこの阿波野新一君なんです。全く困っています。
「夫婦だの弟だのって。縁起でもない」
「縁起でもないんだ」
「まだ十九よ」
大学に入ったばかりです。まだまだこれからって言われているのに。
「それに新一君十七じゃない。何が夫婦よ」
「あっ、そうか」
「そうよ」
話しているうちにさらに頭にきてきました。
「それにしても。主任先生本当に仰ったのよね」
「だから俺と先輩と二人でって」
「何でよ」
溜息が出ました。本当に嫌になります。こうした何かに不満を持ったりするのを天理教では『ふそく』と呼んでいます。
「新一君となんて」
「とにかくさ、呼んでるし」
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