暁 〜小説投稿サイト〜
越奥街道一軒茶屋
手長の目
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ませたんですがね、そん時あっし、気づいちまったんですよ。
 普段からバケモノとかに気を配ってる所為か、こういうのには妙に鼻が聞いちまうんでさぁ。

「その金はあんたにやりやすよ」

 歩いていこうとしたお客さんに、あっし、そう声をかけたんです。
 するとお客さんは、立ち止まった。背中を向けてたんで顔は見えなかったんですが、包帯を巻いた手が、少し震えてるのは見えましたね。

 この女の人、掏摸師だったんですよ。

 宍甘の旦那に金を払った時、あっしが財布をどこに持ってるか見てたんでしょうねえ。それで、話してる間のどこかで掏ったんでしょう。
 いつ掏られたかってのは全然気が付かなかったんですがね、勘というか、気配というか、それに賭けて声をかけたんでさぁ。

 それに、やっぱりこの女の人にはなんかが引っかかる。

「気づかれてしまいましたね……。矢張り出立するのはもう少し後にしましょう」

 そういって、彼女は縁台に座ったんですよ。
 一緒に、あっしから掏ったお金を差し出してきた。
 やるとは言いやしたが、本人にその気がないならば、素直に返してもらいやした。

「これを、見てください」

 彼女、言いながら手の包帯を外したんですよ。
 その下に隠されてたのは、何と目玉だった。さらに着物の袖をまくり上げて腕を露わにしたんですが、そこにも無数の目がくっついてた。

「あんた、銭に祟られたのかい」

 どう見ても鳥目の念が憑いた奴でしたね。
 女は良くわからねえみたいで、目を伏せるだけ。

「盗みをする輩、つまり手長の腕には、銭……鳥目が祟って目をつけるんだ。祟り目ってやつでさぁ」

 説明すると女は罪悪感を浮かべやした。

「私の過去も、聞いて頂けないでしょうか」

――

 女がどこかで給仕をしてたってのは、店に来てすぐに聞いていやしたが、給仕を辞めてから今まで、彼女はとんでもない苦労をしてきたらしいんでさぁ。
 それで掏摸に手を染めたんだとか。
 でも今は上質な着物を着てる。そこを尋ねると、どうやら今ではそのくらいには持ち直してて、でも掏摸がやめられなくなってる、って感じのようで。

「私は、かつての自分に重くのしかかられているのです。今の自分は、過去の自分のようになることはできない。だから、かつての自分のような人を見ると、仕返しをするように、懐を探ってしまうのです」

 女はそう締めくくりやした。
 一人のお客さんに深入りするってのは、あまり好きじゃないんですよ。でもこの場合は、話が別。

「そうなった人を、ドドメキっていいやしてね……。キは鬼のキ、つまり、バケモノの仲間なんでさぁ」

 自分でも、中々冷徹な言葉だと思いやす。でもバケモノを人に戻すには、まずこっか
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