手長の目
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ことにしたんですよ。
「ったく、あん頃の小僧が、今じゃすっかり茶屋の主人が板についてるもんなあ」
妙に上機嫌で、旦那はあっしの昔話を語り始めた。
正直こっぱずかしいのはあるんですがね……。
「姉さん姉さん。こいつね、十五ン時から店を切り盛りしてんですよ。一人親に死なれてね? 俺ァこいつのおふくろが店をやってた時代から付き合いがあったんだけどよ、こいつが店を継ぐって決心したときゃほんとたまげたよ。最初は随分頼りなかったんだけどなあ……」
こんな風にペラペラと話しまくっちまうもんで、止めようかどうか迷ったほどでしたよ。
でも、何が興味を引くのかわかんないんですがね、お客さんのほうも妙に話に食いついてる。お陰でこっちは止められず、今までのこと洗いざらい全部話されちまった。
妙に上機嫌だったんで、ちょっと問い詰めたんですよ。したら、
「いやあ、さっき私用の財布を掏られてるのに気づいちまったんだよ。まあ大した金じゃねえから構いやしないんだが、その所為」
思いもよらない答えが返ってきた。財布掏られて上機嫌になる奴なんざ聞いたことねえんですがね、本人がそれでいって言うんだったら、構うことないと思ってそのまま話を流しやした。
その代わり、さっきのお返しに、あっしも旦那の昔話をぶちまけたんでさぁ。
先代は立派な店を持つ老舗の菓子屋だったこととか、そこが色々あって潰れて、餓死寸前までいった時期があったこととか、おふくろから聞いたことも含めて話してやったんですよ。
したらお客さん、こっちには度肝抜かれたみてえでしたね。
「そんなに意外かい? 苦労話とはいえこんな奴のだぜ?」
って旦那が聞くと、
「どうして……」
そう呟きながら、ちょっと顔を伏せたんですよ。
「御二人とも、どうしてそんなに笑っていられるのですか? もし私だったら、絶望してしまいます」
やっぱり何か心の奥底に持ってる人だったんですねぇ。客の過去を詮索することなんてしやせんが、そん時の声には、なんだか後悔みたいのが感じられましたよ。
「過去なんて、笑い話にする以外どうしろっていうんですかい? そりゃ温故知新、とも言いますがね、今の自分にはそれ以上のものはないじゃありやせんか。あっしはそう思ってますよ」
全てを知らないままに人を励ますってのは、無責任なのかもしれませんがね、時にこういう言葉で心の穴が塞がる人は良くいるもんですよ。
お客さん、ものすごく驚いた顔をしてやしたね。
丁度その時、日の加減を確認した宍甘の旦那が暇を告げてきたんでさぁ。
それを切っ掛けに、この話は終わりになったんですよ。
でも本当に肝心だったのは、この後。
お客さんのほうも、そろそろ出ると言って勘定を済
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