晩餐会 2
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ンキュウやツボってやつよね。経験したことはないけど」
「カブリュ・ヴァドール放浪伯に施術したが好評だったよ。その点穴だが、上手く突けば非力な老人や子どもでも大の男をたやすくたおすことができる。指一本で悶絶させ、死に至らしめることもできる。ただ相手の体調や時刻によって微妙に移動する点穴を探りあてて、突くことは至難の業だ。いまも正確には入らなかった」
「でも目をつむった状態で二本の飛刀をかわすなんてすごいわ」
「……そんな状態で笑みを浮かべるおまえもすごいぞ」
予想外の攻撃に対してとっさに放った寸指勁はレニリアの全身を麻痺させるにはおよばなかったが、片腕の自由を奪った。
中途半端に経絡を断ったのだ。感覚を失うのではなく、肩から先を切断されたが如く痛みを感じている。
「解穴すればすぐに治療できるが、せっかくの機会だ。自分で治癒する術を伝授しよう」
痛みにさいなまれる者に対して、これは厳しい。スパルタ教育である。
「まずは気息を整え、体内の気をゆっくりと背骨にそって上に移動させてゆく。これは周天の法といって気を特定の経絡に――」
「その必要はないわ」
レニリアの足刀が空を切った。
下から秋芳の腹を削り上げるようにして顎を狙う。
秋芳はそれを寸前で躱す。
のどから耳にかけて、刃物のような鋭さで拳圧ならぬ足圧が走り抜けた。
ぞくり、と秋芳の見鬼が反応する。
(――ッ!)
たったいま躱した足が、かかとが後頭部を目がけて飛んできた。
それを、首を沈めてかろうじてかわす。
「……宝蔵院の十文字槍かよ」
奈良の興福寺に興った宝蔵院流槍術の十文字槍は『突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌』とうたわれるほどの万能武器だ。刺突を躱された瞬間に引くことで左右に突き出た両の穂身で相手を後ろから斬り裂くことができる。
レニリアの足技もまた、そのようなものであった。
「初見の相手に昇龍脚と龍落踵――双龍脚を躱されたのははじめてよ」
左足を後方に引き、右膝を軽く前に突き出した。自由の利かない右腕はそのままに、左手でマントの裾をつかんで盾のように前へ出す。
「なんなんだ、その拳武館の高校生暗殺者が使うような技の名は」
「実戦で、敵を前にして悠長に霊絡治療なんかするひまはないでしょ。このまま続けましょう」
「剣の次は格闘術か。いいだろう、つき合おうじゃないか」
秋芳の薄い唇が笑みの形になる。
武術はもっとも実践的な魔術のひとつ。そのような考えのもと、幼い頃から鍛錬を重ねてきた。
秋芳もまた、呪術魔術の徒であると同時に武術家でもあるのだ。
動的霊災でもなんでもない、武の心得のある生身の人間と久々に拳を交えることに、喜びを感じていた。
秋芳は軽く腰を落とし、膝をま
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