晩餐会 2
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に絞る――。わかるか?」
「わかるわ」
レニリアの手が翻り、秋芳の喉元に細剣の切っ先が向けられた。
「なんだ、この手は」
「ぐだぐだうだうだ、ごたくを垂れ流す前に、まずは実践あるのみ! あなたの力、見せてちょうだい!」
未知なる武術の使い手と戦えることへの喜びに、レニリアの蒼氷色の瞳が輝いていた。
この娘は、戦うことが嬉しいのだ。
力と技を競うことが、楽しいのだ。
「……鮑三娘や穆桂英みたいな娘だな」
鮑三娘とは後漢末の三国時代を舞台にした民間説話『花関索伝』に登場する人物で、良家の令嬢ながら武芸に秀で、「自分よりも弱い男とは結婚しない」と豪語するほどの女傑だ。
穆桂英は『楊家将演義』という古典作品や、それを題材にした京劇に出てくる文武を兼ねそろえた女将軍で、並の男なぞ足下におよばない凄腕の女性だ。
「最初から俺と手合わせするつもりだったな」
「そうよ」
「技の教授よりも、手合わせするのが本命だな」
「ご明察」
喉元にあてた剣がまっすぐに伸びる。
伸びた分だけ秋芳が下がる。
レニリアがさらに進む。
秋芳がさらに下がる。
進む。
下がる。
進む。
下がる。
人払いの結界の境目まできた時、ひときわ瞬烈な刺突が放たれる。
「……たいした発条だ。普通はいちど腕を引くなり、腰を落とすなりして溜めを作って強烈な一撃を放つものだが、おまえさんときたら上半身の筋肉のみで強打を放った。ひょっとしてさっきの説明は不要だったか? それは寸勁といって、東方武術の技巧のひとつだ」
「こっちはそれをやすやすと避けたあなたの体捌きにおどろいているわっ」
言うとともに背後に回った秋芳めがけて後ろ蹴りをするレニリア。
すねに軽く手をあてて打撃の勢いをそらしつつふたたび後方に退く秋芳。
「おどろいているのはこちらもだ。軽量の当て身は弱いのが相場だが、おまえさんときたら遠心力を乗せた瞬発力抜群の打撃を放つ。空手の黒帯レベルじゃないか」
「カラーテとかバリツとか、そういう名称の東方武術があるみたいだけど、わたしのはちがうわ。剣はゼーロスに、格闘術はバーナードに習ったの。あ、いま言ったふたりは親衛隊と特務分室の人ね」
口を動かす間にもレニリアの攻撃は止まない。右に左に体を移し、疾風迅雷の速さで剣を振るう。
剣だけではない。
「シュッ」
鋭い呼気とともに剣を握っていないほうの手がひるがえると、漆黒のマントが刃となって秋芳の首筋を狙う。
身にまとう鎧であり、攻撃を受け流す盾であり、裾で切りつける武器でもある攻防一体の魔道具。
それだけでは、ない。
首を狙ったかのように見えたマントは寸前で向きを変えて
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