よるの夢こそまこと
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うつし世はゆめ よるの夢こそまこと
江戸川乱歩
楽しい夢から目覚めた時は、泣きたいほどに悲しくなる。
あまり楽しくない。こわい夢から目覚めた時にだって残念な気持ちになる。
なんだ、どうせ夢なら遠慮はいらない。追いかけてくる怪物に立ち向かったり、いやな奴なんて蹴り飛ばしてやればよかったのに、と。
だから香澄はもう少しだけこの奇妙な夢を観ていられるよう、心から思った。
そう、夢だ。
夢にちがいない。
夢だよね?
うん、夢よ。夢に決まってる!
雲ひとつないピーカンの青空と、月も星もない漆黒の夜空が同時にあるのだ。
線で引いて分けたようにくっきりはっきりとふたつの空が広がっているのだ。
これが夢でなくてなんであろう。
現実ではありえない異様な光景だ。
「ん〜、いいわね、これ。なんかいかにも亜空間とか異世界とか、そんな感じ」
そう独語し、まわりを見渡すとそこはいつもの見なれた商店街。
お米屋さんに美容院。いくつもつらなる居酒屋に喫茶店。昔はおもちゃ屋だったマッサージ店――。
ちがう。
微妙にちがう。
いや、かなりちがう。
一階建てのはずのお米屋さんや美容院がマンションのように二階、三階、四階――。
一〇階建て以上になっているし、香澄が小さい頃につぶれてコンビニになったはずのお店がそのままの姿で建っている。
夢ならではのデタラメぶりを楽しみながらあちこち歩いていると、一軒の古本屋を見つけた。
店の軒先に大量のDVDや本があふれている。
興味をもってそのうちの一冊を手にとってみると、香澄の好きな小説家の作品。
それも香澄が今だ読んだことのない、おそらくはココにしか置いてない「最新作」だ。
よろこんでページをめくってみたが……。
『むァぁウガXF縺ォ縺PツチRケHPパ8縺倥c縺ュ笶WVレTの』
(うぐっ、読めない……)
アレだ。
夢特有のアレだ。
簡単な計算ができなかったり、文章が読めないという。
夢の中ではよくあるアレだ。
他のいくつかの本やDVDを手にとって見たが、どれも香澄には解読不可能だった。
読書はあきらめてきびすを返し、一歩踏み出す。
けれどその動きはぴたりと止まった。
そこに怪物がいたからだ。
「――ッ!?」
なんの物音も気配もしなかった。
それなのにそいつは突然あらわれた。
巨大なワニに似た頭から触手のような角のようなものが生え、うごめいている。
大きく割けた口にはナイフのような牙がならんでいる。
ひと噛みされたら手足どころか香澄の華奢な胴体なんて真っ二つににされてしまうだろう。
ヘビやトカゲのような
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