天使のような子と──
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けになっていた。
──それが理由なのかもしれない。俺が南さんを抱き寄せる様にして、肩に手を回したのは。
「……あっ」
完全に無意識の内だった。自分でもよく分からない。自惚れだとか、調子に乗っただとか、俺を貶す言葉はいくらでも出てくる。南さんにそのようなことを言われても文句は言えまい。
だけど彼女は、少し驚いただけで、その後は何も言わずに俺を受け入れてくれた。コツン、と右肩に体重を感じる。南さんが頭を乗せてきたのだ。
「……」
会話もなく、ただそよそよという風の音だけが通り抜けてゆく。いや、最早会話すらも必要ないのかもしれない。
──だって、これ以上ないくらいに幸せな今、変に言葉を交わすより、このまま幸せに身を委ねる方が良いに決まってるから。
一体どのくらいの時間、南さんと寄り添っていただろうか。いつの間にか、夕日が沈み切っていた。辺りも徐々に暗くなり始め、街灯が点いているところも確認できる。
そろそろ、帰るべきか。
「……そろそろ帰る?」
「……」
「南さん?」
ずっと会話がなかった為、若干ではあるが恐る恐る南さんに聞いた。しかし、肝心の彼女の反応がない。どうしたのかと顔を覗くと、目を瞑っていた。寝息も聞こえるし、どうやら眠っているようだ。
今日は結構歩いたし、疲れてしまったのだろう。そういう俺も、久しぶりにたくさん歩いたから足が痛い。身体も疲れが溜まっているように感じる。帰ったらシャワーを浴びてそのまま寝てしまうのもいいかもしれない。
「南さん、起きて」
声を掛けながら、彼女の身体を優しく揺する。あくまで優しくである。
「んん……うん? あれ……私、眠ってた?」
「うん、おはよう」
「おはよう……じゃなくて! ご、ごめんね!」
意識が覚醒したのか、いつも通りの南さんに戻った。いつも通りの南さんも可愛いけど、寝起きの南さんもとても可愛かったな。まるで抱き締めたくなるような可愛さだ。今まで寄り添ってはいたけれど。
「いや、大丈夫。それでさ、もうそろそろ帰ろうかなって思って」
「あっ……そっか。もうそんな時間なんだ……」
どこかもの哀しそうに、地平線を見つめる南さん。デートの最後を惜しんでいるのだろうか。
「うん、名残惜しいけど……ね」
「そう、だね……」
俺としてもまだデートは終わって欲しくない。まだ南さんと遊んでいたい。もっとこの幸せな時間に身を委ねていたい。
だが、そうもいかないのが現実だ。大人であればこのまま遊び明かすのも可能だろうけど、俺達はまだ未成年。親だって心配するし、あまり遅い時間に歩き回っていると補導されるかもしれない。
「……ねえ、神崎くん」
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