第五章
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「残念ですが」
「そうですか、三人が死んだ後ドクターエスは被害者の母親つまり自分の母親が心労から立ち直ったとのことでシカゴに戻りましたが」
「シカゴに戻ったということもです」
「怪しい」
「はい、何もかもが怪しいです」
ドクターエス、彼はそうした者だというのだ。
「おそらくシカゴに確認を取ってもわからないです」
「何もかもがわからないのですね」
「そうなのです、アベックを殺した犯人のことはわかっても」
「そして彼等を殺したのがドクターエスとわかっても」
「彼が何者か、彼が殺したという証拠もです」
「推理は出来てもですね」
「掴めません、何もかもがわかりません」
ドクターエスについてはというのだ。
「残念ですが」
「君がそう言うとはね」
ワトソンはホームズのその言葉を聞いてまさかという顔になっていた。これまでどうした難事件でも解決してきた彼を見てきたからだ。
「僕もはじめて聞いたよ」
「残念だが彼は殺人についても天才だ」
「ドクターエスは」
「そして自分を隠すということについても」
「だからなのだね」
「僕は推理の天才だが彼もまた推理の天才でだ」
アベック殺人事件の犯人を突き止めたからだ、ホームズも突き止められたが彼もまたそうだったからだ。
「しかも殺人と自分を隠すことの天才だからね」
「わからないのだね」
「そう、ただ思うことは」
「思うことは?」
「世の中非常に恐ろしい者がいるね」
「ドクターエスの様な人物がだね」
「こうした人物が若し悪意を以てこうしたことをするなら」
その時はとだ、ホームズは深刻極まる顔で言った。
「モリアーティ教授以上に恐ろしい人物になるよ」
「モリアーティ教授か」
「そう、彼よりもね」
「彼も生きている様だがね」
かつてホームズと共に崖から落ちた、そうして死んだと言われているがワトソンはそう考えていたしホームズも同じだ。
「しかしその彼以上にだね」
「恐ろしい人物になっているよ」
「願わくばそうした人物が出て欲しくはないね」
「ドクターエスが狂気に陥って自ら進んで悪事をすることもね」
「そうなっては僕にも太刀打ちは出来ないしね」
「今回の事件は警察もドクターエスが犯人達を殺したと確信しています」
刑事がまたホームズに言った。
「しかしです」
「証拠はですね」
「何もありません、本当に恐ろしい人物です」
「全くです、僕もこうした人物ははじめてです」
ホームズは感嘆の言葉さえ漏らしていた、そうしてパイプの中の煙草を交換して刑事から今度は新たな依頼を聞いてそちらに推理を働かせた。
グラスゴーアベック殺人については今も非常に謎が多い事件と言われている、ドクターエスが何者かわかっておらず彼が犯人達を殺したという証拠もない。今後こ
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