第一章
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これこそ親分
この時日本ハムファイターズの監督大沢啓二は明らかに怒りを見せていた。
それで自分が今いる一塁コーチボックスの後ろのベンチに共にいるコーチ達にこう言った。
「今のボールどう思う？」
「ウィリアムスへの竹村のボールですね」
「それですよね」
日本ハムの四番ウィリアムスへの阪急ブレーブスの三番手竹村一義の東部への死球についてだ、コーチ達も大沢に答えた。
「あれはどうにも」
「すっぽ抜けじゃないですね」
「狙ってましたよ、あれ」
「ビーンボールですよ」
「やっちゃいけねえことがあるんだ」
大沢は腕を組んで言った。
「そのうちの一つがだよ」
「ビーンボールですね」
「今のですね」
「あんなのをしたらな」
それこそというのだ。
「命に関わるだろ」
「頭へのビーンボールは」
「特にですね」
「とんでもないことをしますね」
「俺も色々やってきたがな」
大沢は子供の頃から生真面目とは正反対の人物で喧嘩もよくしてやんちゃもしてきた、酒も女も博打もやってきた、だがそれでもだ。
人の道については弁えていた、それで今も言うのだった。
「しかしな」
「やってはいけないことがある」
「それが今ですね」
「竹村のビーンボールですね」
「それですね」
「あの野郎、本当にとんでもねえ奴だ」
全く以てとだ、大沢は怒りを露わにさせたまま再び言った。
「うちの選手を殺す様な真似をしたらな」
「その時はですね」
「いよいよ」
「監督も」
「ああ、覚悟を決めるか」
こう言うのだった、そしてだった。
一塁のコーチボックスで采配を執ることもしていた、しかしその彼の目の前でだ、竹村は七番の上垣内にもだった。
頭への危険球を投げた、これには大沢は激怒して叫んだ。
「おい、またやったな！」
「監督、今のは！」
「間違いありません！」
「わざとです！」
「わざと投げてきました！」
ベンチからコーチ達も口々に言ってきた。
「審判何やってるんだ！」
「退場させろ！」
「あんなこと許すな！」
「どういうつもりだ！」
審判達への抗議も行われた、だが。
審判も呆然とするばかりだった、そして対する阪急の監督である上田利治も苦い顔をしていた。大沢はそれを見て確信した。
「最初から上田は関係ないってわかっていた」
「はい、ウエさんはそんなことはしないです」
「ビーンボールは投げさせないです」
「そんなことさせる人じゃないです」
「そうしたことは」
「あいつは俺よりずっと出来た奴だ」
品行方正な人間だというのだ。
「だからな」
「そうしたことはしないですね」
「じゃあ竹村が勝手にやってることですね」
「あいつだけが」
「ああ、そうだな
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