第三章
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「あの生きものの」
「妖怪のな」
「そういえば」
あやめもその店長を知っている、その店長は確かに狸に似た顔と体形だ。それで言うのだった。
「その人どうも」
「豆狸でな」
「それで、ですか」
「あの店長いい酒出すんだよ」
一見すると潰れかけの酒屋だがというのだ。
「妖怪も贔屓のな」
「妖怪ですか」
「大阪のな」
「そうしたお店だったんですね」
「ああ、それでな」
彼は妻にさらに話した。
「あそこの酒買って家にあるって言えばな」
「飲んでくれますか」
「それで酒が入るとな」
そうなった時の三樹夫の話もするのだった。
「あの不愛想が消えて凄い陽気になるからな」
「そこからですか」
「色々四人で話せばいいさ」
女三人と彼と、というのだ。
「そうすればいいよ」
「そうですか」
「ああ、じゃあな」
「お店に行ってきます」
あやめは夫に応えてだ、そのうえで。
次の日買いものの帰りにその店に寄った、するとそのよく見ると本当に狸が正体に見える店長がだった。
出て来てだ、それであやめに言ってきた。
「いらっしゃい」
「はい、日本酒が欲しいんですが」
「日本酒かい」
「はい」
この酒だとだ、あやめは店長に言った。
「それも特別な」
「おや、あんたひょっとして」
「はい」
こう返した彼だった。
「主人から聞いています」
「そうかい、じゃああれだね」
「一番美味しいお酒お願いします」
「わかったよ」
店長はあやめと目と目のやり取りをしてだ、そうしてだった。
一升瓶で買おうとしたがだ、ここでだった。
自分の買いものの量を見てだった、そうして店長に言った。
「あの」
「ああ、一升瓶だとね」
「一度に持てないですから」
それでというのだ。
「一回お家に帰って」
「そうしてだね」
「また来ます」
こう店長に答えてだ、そしてだった。
あやめは一旦家に帰って他の買いものを置いてからだった、酒屋に戻り。
酒を買った、それもだった。
「呆れたわ」
「そうよね」
蒔絵もちるも驚いていた、何とあやめは一升瓶を三本買っていたのだ。
「幾ら何でも三本って」
「多過ぎるでしょ」
「いや、三樹夫さんお酒好きで」
あやめは呆れている娘達に話した。
「特に日本酒とりわけこのお酒が好きっていうから」
「だからなの」
「三本も買ったの」
「ええ、それでよかったらね」
あやめはこうも言った。
「お金出すから貴女達も買う?」
「お酒?」
「それをなの」
「内緒だけれど」
実際小声で話したあやめだった、急にそうなった。
「貴女達も飲む?」
「私高校三年よ」
まだ未成年だとだ、まずは蒔絵が答えた。
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