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駄目親父としっかり娘の珍道中
第83話 無邪気な子供は時々残酷な事を楽しむ事もある その3
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は銀時自身も薄々感づいていた。
 しかし何もない世界だ。これがもし死後の世界だと言うのならば是非お断りしたい。

「おぅい、シュテル! お前の言われた通りにしたぞ。何処に居んだぁ!?」

 試しにシュテルを呼んではみたが、やはりと言うか返答がない。周囲に自分しかいないこの空間に彼女が居れば反応したのだろうが、生憎返って来たのは静寂だけだった。

「勘弁してくれよ。こんな何もない空間でぼっととか有り得ないんですけど。ってか、何時までこの話引っ張るんだよ。いい加減終わらせようって考えはねぇのか此処の作者はよぉ! 散々引っ張っておいて今度は白と黒の闇の中ってか? 面白くねぇぞゴラァ!」

 やけっぱち紛いに周囲に罵声を飛ばし始める。仕舞いには昨今の情勢だとか自身の貧困さとか糖尿関連とかをやたらめったらぶちまける始末。
 ただの騒音でしかなかった。

「・・・ま・・・さま・・・」
「!!!」

 近くで掠れた声が聞こえてきた。それは、ちょうど銀時の真後ろだった。
 振り返ると、其処には確かに彼女は居た。
 右半分が闇に呑み込まれ、意識のない状態のなのはと、同じように顔と片腕以外殆ど闇に呑まれてる状態のシュテル。その二人の姿があった。

「お前ら!」
「間に合った・・・みたい・・・です・・・ね・・・」
「シュテル、お前―――」
「今なら・・・間に合います・・・早く・・・なのは様を・・・引き摺り・・・出して・・・」

 そう言って、シュテルは自分ではなくなのはを助けるように言ってきた。彼女だって闇に呑み込まれている。それももう間も無く全身が沈んでしまうかの様な勢いでだ。

「なのはをって・・・お前はどうするんだよ?」
「私は・・・良いです・・・それよりも・・・早く・・・」
「ふざけんな! だったら二人一緒に連れ出してやれば―――」
「そんな事を・・・すれば・・・お父様も・・・闇に・・・呑み込まれて・・・しまいます・・・」
「そんなの知った事か! 待ってろ」

 二人の手を掴もうとした時、右腕に違和感を感じた。
 無い、さっきまであった筈の右腕が無くなっていたのだ。

「嘘だろ! こんな時に!!」

 焦りが生まれる。どう考えても片方助けた後でもう片方を助ける時間はない。そうしている間にもどちらかが闇に呑み込まれてしまう。
 助けられるのは一人だけ。だが、どちらを助ければ良い。

「恨むなよ・・・」

 小声で申し訳なさそうに言う銀時に、シュテルは無言で頷いた。分かっていたのだ。
 本来助けるべきなのは自分ではないと。だが、それも納得している。
 生まれてからほんの短い時間でしかなかったが、実に充実した時だった。
 悔いはない。

「う・・・・あ・・・・」

 そんな時だった
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