第十話 決して埋まらない溝
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も構わず、捉えた腕を力任せにこちらに引っ張る。金剛は引っ張られる腕に抵抗することはなくこちらに引き寄せられる。
凰香は俯いたまま沈黙している金剛の襟首を掴む。それにより金剛は膝立ちの状態になり、凰香が金剛を見下ろす形となる。
「加賀サんにアのヨウな酷イことヲさせルとハ、いイ度胸シてマスねぇ」
凰香は怒り狂って『防空棲姫』になりそうになるのを懸命に堪えながら、地獄の底から響くような低い声で金剛に向かってそう言う。しかし金剛は凰香にそう言われたにもかかわらず、顔を上げようとしない。
それを見た凰香は右腕の拳を握って振り上げる。金剛が顔を上げた瞬間に拳を叩き込む準備をするためだ。
そして俯いたままの金剛の表情を見るために掴んでいた襟首を捻りあげる。
それにより俯いていた金剛の表情が露わとなった。
「ひぐッ……うッ……うぅ……」
金剛は泣いていた。
固く目を瞑り、血が出るほど唇を噛み締め、これから来るであろう激痛に耐えるかのように、彼女は泣いていた。
そこに、さっきまで凰香を睨み付けていた、数々の戦いを切り抜け、帝国史上最も活躍した戦艦『金剛』の姿はなかった。
ただの、一人の女性がいた。
「ッ」
泣いている金剛を見た凰香は思わず振り上げていた拳を止めてしまう。それと同時に全身を満たしていたどす黒いものは急速に治っていき、眼は元の黒色に戻り、赤いオーラも霧散する。
「ていとくぅ……」
加賀の声が聞こえ、足に抱き付かれる。
凰香が足元を見下ろすと、涙でぐちゃぐちゃになった顔の加賀が必死に凰香の足に縋り付いていた。
「こんごうさんはかんけいありません……すべて、わたしがわるいんです……ゆるしてくださぃ……」
嗚咽交じりのか細い声で凰香にそう懇願してくる加賀。捻り上げられて何も抵抗することなく込み上げる嗚咽をかみ殺す金剛。
そこに、深海棲艦を一撃で沈める戦艦と正規空母の姿を微塵も感じることはできなかった。
「凰香、それ以上は止めておきなさい。それ以上やったら『人』でなくなるわよ」
防空棲姫が凰香の肩に手を置いてそう言ってくる。
彼女の言う通り、無抵抗な金剛にこれ以上手を出せば凰香は弱者を虐める下衆となんら変わらなくなる。それこそ、前任者と同じになってしまう。
「………ごめんなさい」
凰香はそう言いながら金剛の襟首を離した。解放された金剛はそのまま床にへたり込み、涙にぬれた顔を必死に拭う。
それを確認した加賀が小さな嗚咽を漏らしながら凰香の足を離れ、金剛に近付いて肩に手を置く。
肩に手を置かれた金剛は拭っていた手を止め、いきなり立ち上がる。それに一瞬驚いた加賀であったが、すぐに顔を曇らせて
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