第十話 決して埋まらない溝
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
この上ない。
凰香は迷うことなく加賀を振り払う。
「キャッ………!」
加賀が小さな悲鳴をあげて吹き飛ばされるが、壁に当たる寸前で榛名が加賀を受け止める。
「く、黒香さん!落ち着いてください!」
加賀を受け止めた榛名がそう言ってくるが、凰香は耳を傾けることなく廊下に出て、『敵』と認識した艦娘の姿を探す。
「金剛さァン、何処ニいルンですカぁ?」
地獄の底から響くような低い声を出して歩く。
夜も更けているために寝ている艦娘もいるだろう。しかし凰香はそれに気を配っている余裕などなかった。
今、少しでも気を抜けば凰香は『防空棲姫』と化す。凰香がまだ防空棲姫と化していないのは、凰香の頭がまだ冷静さを失っていないからである。
「静かにするネ!!」
不意に横から怒号が聞こえてくる。凰香がそちらの方を向くと、そこに目的の人物が立っていた。
榛名と同じように露出の激しい和服にカチューシャ、丈の短い黒色のスカート。加賀や榛名と肩を並べられるほど透き通った白い肌に浮かぶ目に深い隈が刻まれているその姿の艦娘は、まごうことなき凰香が探していた艦娘『金剛』である。
「もう就寝している子たちの迷惑を考えてくだサイ!!」
顔に深いシワを刻み込みながら、金剛は凄味を効かせてくる。今まで見せてきたことのないその顔に、大概の人なら怖気づいてしまうだろう。ましてや子供なら悲鳴を漏らして泣いてしまってもおかしくはない。
しかしーーーー
「見ィつケマしたヨぉ、金剛さァン」
ーーーー今の凰香にそんなものは通用しない。何せ今の凰香には感情は存在しない。故に『恐怖』という感情も存在しないため、金剛の凄みなど通用しない。
凰香は赤く染まった眼で金剛を見つめながら一歩踏み出す。
それを見た金剛は近づいてくる凰香の異様な姿を見て顔を引きつらせ、一歩ずつ後退りを始めた。
遠い昔、世界が大規模な戦乱に見舞われた際に最古参のブランクをものとのしない怒涛の活躍で名を馳せた戦艦、あの金剛が『災厄』と恐れられた防空棲姫の魂を宿した人間の少女に後ずさる。おそらくこのようなことは初めてだろう。
金剛が一歩後ずさるのに対し、凰香は二歩歩いて距離を詰めていく。凰香が近づいていくのに対して、金剛は引きつらせた顔を何とか持ち直し、戦艦『金剛』の名にふさわしい殺気染みた視線を向けてくる。
しかし凰香にそんなものは通用しなかった。
凰香がどんどん距離を詰めていくと、後退りしていた金剛はやがて顔を背けた。それにより、彼女の殺気染みた視線が消える。
凰香はここぞとばかりに一気に金剛との距離を詰め、そして金剛の腕を捉えた。
「ッ」
金剛の小さな声が聞こえるの
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ