巻ノ百三十 三日その五
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「それがまさにな」
「危機を招く」
「そうなるからな」
だからだというのだ。
「修理殿、主馬殿の兄上はな」
「むしろ兄上こそが」
「支え説得する御仁が必要やもな」
「それでは」
治房はその言葉を聞いて強い声で返した。
「それがしと弟が」
「三人で、ですか」
「兄上を支えてみせます」
「そうされるか」
「出来るだけ兄上と共に茶々様の御前に参上し」
そうしてというのだ。
「兄上が茶々様に折れそうになれば」
「その時にじゃな」
「お止めします」
強い決意で言った治房だった。
「その時は」
「頼み申すぞ、そのことは」
「ではそのことも踏まえて」
「今宵はな」
「思う存分暴れて勝ち鬨をあげましょうぞ」
このことも約してだ、そしてだった。
その夜実際に塙と治房は十勇士達と共にうって出て思う存分暴れた、そうしてそのうえでだった。
塙は去る時にだ、率いている兵達に言った。
「これより紙を撒いておく」
「紙を?」
「紙をですか」
「そうじゃ、そのうえで去るぞ」
こう言ってだ、実際に塙はある紙を撒いてから去った、その紙は程なくして家康にも届けられたが。
その紙に書かれている文を見てだ、家康は読んだその瞬間に顔を崩して笑って周りの者達に言った。
「ははは、敵ながら見事よ」
「どうされました?」
「急に笑われましたが」
「これを見よ」
周りの者達にその紙を見せて言った、そこには夜討ちの塙団右衛門と堂々とした文字で書かれていた。
「自分で名乗っておるわ」
「おお、最初から夜討ちを仕掛けるつもりで来て」
「そしてですな」
「夜討ちを成功させた」
「それを自分から書いて喧伝しておりますか」
「この心意気見事じゃ」
こう言って笑うのだった。
「まさに武士、敵ながら見事じゃ」
「塙殿といえば夜討ち」
大久保が言ってきた。
「そしてこの度もですな」
「我等もわかっておったがな」
「その我等に夜討ちを仕掛けて成功させた」
「それが見事じゃ」
実にというのだ。
「このことに笑ったのじゃ」
「敵ながら見事だと」
「そうじゃ、大坂は実に見事な将が揃っておるのう」
「ですな、では」
「そうした者達は是非じゃ」
今度はにんまりと笑って言う家康だった、これまでの破顔大笑とはまた違う笑みでの言葉であった。
「幕臣とせねばな」
「首を取るには惜しい」
「そう思う、だからな」
「ここはですな」
「是非共な」
「手に入れられますな」
「そう思った、あそこには優れた者が多い」
将としてというのだ。
「皆幕府が欲しいのう」
「大御所様、それではです」
柳生が思わず笑って家康に言ってきた。
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