72部分:第七話 二人きりでその二
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第七話 二人きりでその二
「あの女神が」
「我が国にいるのかな」
義正は佐藤の話に少し苦笑いになった。そのうえでの問いだった。
「希臘の女神は」
「我が国は多くの神がいますし」
八百万だ。その数は伊達ではない。
「他国の神も受け入れてきましたし」
「仏もだね」
「ですから。希臘の神もです」
「いるのかな」
「少なくともいないとは言えません」
いささか強引な主張だが佐藤は今はそれでいいとした。
「ですから」
「愛の女神は日本にもいる」
「はい、その愛の女神が許せばです」
「二人で密かに会うのも」
「いいと思います」
「そういうものなんだ」
「そう思います。ですが」
ここまで話してだ。佐藤はだ。
主のその整った顔を見てだ。こう問うのだった。
「旦那様、まさか」
「あっ、何でもないよ」
佐藤が何を問うのか察してだ。彼は隠した。
そしてそうしてからだ。言う言葉は。
「ただ。聞いただけだから」
「聞いてですか」
「シェークスピア以外にも読んでみたんだ」
文学をだ。その隠れ蓑にして話すのだった。
「色々とね」
「その中で、ですか」
「色々な理由で会えない二人が多くてね」
「恋愛小説には多いですね」
「舞台にもね」
これ自体はその通りだった。恋愛にはどうしても大なり小なり障壁がその前に立ちふさがってしまう。それもまた運命的なものがあるだろうか。
「それをするべきなのかな」
「特に淫靡な意味として考えずにです」
佐藤はこうも話した。
「二人で会うと考えればいいと思います」
「簡単にだね」
「はい、それでどうでしょうか」
「誰にも見つからずに」
「実際にそうして会う二人は多いですし」
これは現実からの話だった。この辺りは佐藤の人生経験である。
「それでなのですが」
「そうだね。わかったよ」
「わかった?」
佐藤は主の今の言葉に気付いた。それでだ。
怪訝な顔になってだ。彼に問い返した。
「旦那様、今何と」
「あっ、別に」
ここでまた失言に気付いてしまった。しかしだ。
何とか取り繕ってだ。こう話したのである。
「いや、舞台のことでね」
「舞台のですか」
「最近脚本を読んでいてね。舞台のね」
「それの話ですか」
「それだとやけに二人きりで密かに会うからね」
こう話したのである。実際に読んでいる為それを隠れ蓑にしたのである。
「だからね。思ったんだ」
「成程、そうなのですか」
「そうなんだ。実はね」
「そうですか。ではです」
「舞台を楽しもうか」
義正は言う。しかしである。
その舞台の主役については言わないのだった。それはだった。
その義正はだ。ある日だ。
仕事が終わってから手紙を書いた。ただしである
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