練習断片1【RO】
前書き
塩酸炎の煙が晴れやらぬ間に、すいっと瓶を投げつけた練成術士が足を踏み出す。
腰に下げた美しい装飾の刀剣に手をかけ、彼女は駆け寄ってきた詩人に声をかけた。
「なっちゃん、お願いがあるの」
「ん、なに?」
膝をついていた兄を引き起こし、かかった声に目を向けると、彼女はニッコリと微笑んで
「春サマを連れて、先に行って」
「ヒメっ、そんな…ッ」
答えたのは、司祭の青年。
弟に支えられながらも、自分の足で床を踏みしめる。
「いくら範囲攻撃が出来るからって、フォローもなしに姫を置いてなん…」
「わかった」
春陽の抗議を遮って、夏空が頷いた。
「ちょ、夏空ッ?」
「いくよ、春兄ィ!」
非難の声をあげる兄の腕を引いて、その場を離れようとする。
「夏空、離して」
「このほうがヒメのためなんだよ!」
「そうよ、春サマ」
言いながら、腰に巻きつけたホルダーから小瓶を取り出し、床に叩き付ける。
がしゃん。という硝子が割れる音と共に、乙姫と二人の間に炎の壁が現れた。
「ヒメ…ッ!!」
「わたしは大丈夫。だから、行って!」
炎の向こうに揺らぐ影。
その儚さとは対照的に、彼女の声は強く確かであることを悟り、春陽はぐっと拳を握りこんで、呟く。
「わかった……。待って、いるからね」
乙姫は、二人の足音が遠ざかるのを確認し、魔物の群れを見やる。
半数以上は先刻の塩酸炎で焼き払えたが、どうやらそれだけでは収まらないらしい。
「…護るわ」
ぽつり、と零れた静かな声が、空気を震わせる。
──絶対に死なせない。
必ず、貴方を─人間たちを、護ってみせる──
装飾のついた鞘から美しい曲線を描く刀を抜き、鈍く輝く刃をすっと斜めに構えて彼女は冷たい笑みを浮べた。
「…南の炎によって生み出され、西の風にチカラを与えられし刃よ。
その加護を譲り受けた、我が命ずる」
仄白く、刀身が光を帯び始める。
「我が名は【玄武】
北の星宿を守護する者なり。
一族頭首の字、亀姫の名に於いて──封印よ、解けよ!」
瞬間。
手にした刀が、眩い白銀の光を放ち、あたりが真っ白に覆われた。
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