巻ノ百二十九 木村初陣その四
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「それでお考えを変えられる筈じゃ」
「それでは」
「今はですな」
「もう一度か二度勝ち」
「そのうえで」
「茶々様のお考えを変えてもらいたい」
こう言うのだった。
「貴殿等にはそう願いたい」
「わかり申した」
後藤がその大野にすぐに答えた。
「さすればそれがしが」
「そうして頂けるか」
「そうしましょうぞ、丁度敵がまた動いていますし」
「今福の堤に向かっておりますな」
「あそこを奪われは何かと厄介なので」
それでというのだ。
「それがしが軍を率いて退けてきます」
「それがしもお供します」
木村は後藤の横から彼にすぐに続いた。
「二人で敵を散々に破りましょうぞ」
「うむ、そうしようぞ」
「それがしも十勇士を送りますので」
幸村も言ってきた。
「思う存分戦って下され」
「ではな」
「次で流れを完全に決めれば」
木村は大野の言う次の次の戦での勝ちを見てはいなかった、次の戦での勝ちで完全に決めるつもりだった。それを言葉にも出していた。
「そうすればいいですな」
「うむ、まことにな」
後藤はその木村に強い声で応えた。
「そうした勝ち方をしようぞ」
「是非共」
「そして兄上は、ですな」
治房が兄に再び言ってきた。
「茶々様をですな」
「左様、兄上は我等の執権です」
治胤も次兄に続いて長兄に言う。
「ですから執権として」
「わかっておる、茶々様はな」
「是非にですぞ」
「説得する」
「それをお願いします」
治胤の声は切実ですらあった。
「さもなければです」
「我等に勝ちはない」
「ですから」
「若し兄上が無理言われるのなら」
治房は弟以上に兄に強く言っていた、その様子は見ていた塙が思わず彼を制止しようとした程であった。
「それがしが」
「いや、それはならん」
大野は弟に毅然として返した。
「茶々様に申し上げるのは執権のわしの務め、だからな」
「それで、ですか」
「有無、お主が言うには及ばぬ」
こう言って治房を退けた。
「わしが言う、おのおの方もな」
「茶々様については」
「修理殿にですな」
「任せて欲しいと」
「その様にお願い申す」
こう言うのだった、それも強い声で。
「あの方のことは」
「そのお言葉確かかと、しかし」
ここせまた言う治胤だった。
「兄上は昔からです」
「茶々様にはか」
「失礼ではありますが」
逆らえぬというのだ。
「そうなので」
「右大臣様には言えますな」
木村はこのことは見ていて知っている、大野は秀頼に対してはいつも毅然として厳しいことを言えて秀頼も聞くのだ。
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