第23夜 刮眼
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テディ・メリオライト………」
「うん?私の顔になにか問題があったか?鏡は見たつもりだが」
そこには、鬼の形相でトレックの顔面を殴りつけた筈の女が、どもまでも柔らかな物腰で立っていた。
「俺の顔を拝みたくないんじゃなかったのか?」
「ああ、そんなことも言ったな。だがいい。もういいのだ。お前の顔などどうでもいいほど、私は機嫌がいい」
一方的にこちらを罵り殴った女と同一人物とは思えない程に柔らかな笑みを浮かべた彼女は、どこか嬉しそうに手に持った銀のペンダントを撫でている。呪法具だろうか、その表面には五行式をはじめとした呪術の印が複雑怪奇に彫り込まれている。
あのペンダント一つが、主を見捨てられたと激憤する彼女の心を宥めたというのだろうか。
「それ、は?」
「これはドレッド様の『こころ』だ。お前とあのドーラットという女と共に、ここに戻ってきた。あのまま行方知れずになるかと思っていたが……お前たちがドレッド様を殺した呪獣を撃破したから見つかったのだ。ああ、ああ……本当に、本当に……」
その時のステディの言葉が真実であることを疑った訳ではない。
ただ――ただ、ペンダントをいとおしそうに撫でる表情が、その形見らしきものを『こころ』と呼ぶその姿が、そして主を無くしたのにペンダントが戻ってきただけでこうも豹変する彼女が――美しいのに、とても病的に狂った存在に見えた。
「――ところで、なにか独り言を言っていたが、悩みでもあったか?お前には大恩が出来た。協力できることならしてやってもいいぞ」
「……ぁ、ああ」
そのどこか少しだけ高慢な態度に、はっと我に返る。異常に思えたのはきっと、彼女の欠落による情緒の不均衡なのかもしれないと思い直し、それなら言葉に甘えるかと思う。
「ええと、俺が倒れてからどれほど?」
「半日しか経っていない。まったく、お前を見つけた者の中に呆れるほどの『流』による治癒の使い手がいたようだ。お前の服はこの砦に着いたときには夥しいまでの血痕が付着していたのに、お前の体の傷は綺麗に塞がっていた」
「砦に着くまでに………いや、そういえば誰が俺をここまで?ギルティーネさんか?」
「いいや、あのドーラットと共に運ばれてきたぞ。あの女、暫くお前を抱いて離さなかったな。『猿』の連中を手古摺らせていた」
「そう、か………うん、ありがとう」
短い会話だった。しかし今のトレックには、とても重要な会話でもあった。
トレックの感謝の言葉にステディは一瞬虚を突かれたようにきょとんとし、何故か苦笑した。
「やはりお前は分からん。しかしドレッド様の言葉を継ぎ、お前にもこれから敬意を払うことにしよう」
「そうかい。まぁ、いつか一緒に仕事する日も来るか」
彼女が俺に敬意を払う。まったく想像
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