第23夜 刮眼
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ルティーネに喰われた訳ではなかったのだろうか。確かにあの時、ギルティーネが自分の血塗れの腹に一心不乱に口を吸いつけていたのを見た筈なのだ。それともあれは、死の淵に瀕したトレックの見た幻だったのだろうか。
あの瞬間、喰われるのも是としていた自分を思い出し身震いする。人間、本当に終わる時はあんな悍ましいことまで考えてしまえるのか、と。
ともかく、服を着て装備を整える。あれほどの傷を負ったのなら倒れてから数日は経過しているかもしれない。ふと武器をどけた後のテーブルにまだ何かあると思ったら、教導師からの伝言だった。内容に目を通すが、最初に読んだ内容と同じではないものの、ほぼ同じ事が書かれている。
ギルティーネ・ドーラットをパートナーから外し、別のパートナーを用意するという点も、替わっていなかった。
「…………」
結果的に――多分だが、呪獣を倒すことは出来た。しかし護衛対象の俺に重傷を負わせてしまったのなら、ギルティーネへの評価は変わっていないのかもしれない。依然、彼女は『人喰い』のままだということだ。
それも、元はと言えば最後の判断を誤り、止めを確実に刺さなかった自分のせいで。
かっ、と頭に熱が湧いた。何と無力で愚鈍で半端な戦士だ。
これでもまだ試験合格だと、大手を振って通りを歩けなどするものか。
見捨てて他人だと言えばそれで切れる縁なのに、想像するたびに何度も彼女のいた孤独な独房を思い出す。光も差さず、音も碌に聞こえず、自力で背を掻くことさえ出来ない厳重な鉛色の錠に自由を閉ざされた世界に生きなければいけないのが、あんな儚げな少女だということに幾度でも憤怒を覚える。
――不意に、そうか、と思う。
自分は、ギルティーネに自分の隣にいて欲しいのだ。
何にも拘束されずに歩き回り、光を感じて欲しい。
何を考えているか分からないから色々と考えさせられる不思議な彼女の自由になった所を自分の目でしかと見つめ、彼女を遮る闇がないことに安堵したい。
「だったら、もう有効期限だとか何だと下らない御託を並べなくて、一つの要求だけ通せばいいんだ。でも、材料に何を提示すれば――俺の命令がまずかったという話はあの教導師には通じない。だったら何だ?何が材料に――」
頭の中にある、使えそうな情報をかき集める中、後ろのドアが開いた。
「ああ、目覚めたのか。思ったより早かったのだな。治癒した者の腕に感謝すべきだ」
「――っ!!」
後ろから聞こえた声には、聞き覚えがあった。
しかし、その声の主を想像した瞬間、トレックは「あり得ない」と即座に否定した。
何故ならその声は、思い浮かべた声の主にしてはありえないほど柔和だったから。
「ステディ。ス
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