晩餐会 1
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、敏感に察知されたようだ。
「まさか、しょっぱなから殺しの仕事じゃないだろうな。昨夜逃した人狩り貴族ども全員を見つけて殲滅しろだとか」
「いいえ、それもいいけど、それはすでに他の人に任せてあるから」
「そりゃあ手の早いことで」
「あなたには別のことをお願いしたいの。さる貴人への武術の指南をお願いするわ。おびただしい数の合成魔獣たちを退治した東方渡来の武術。魔闘術に酷似した神秘の技に興味津々なの」
「その貴人というのはもしや……」
「レニリア姫よ」
手にしたグラスでひそかに指し示した相手は、人の輪の中心にいる影武者のレニリア姫ではなく、自身を指していた。
「ペルルノワールは剣技も魔術も一流。いまさら俺程度の教えなどたいして面白くもないと思うが」
「謙遜しなくていいわよ。アルザーノ帝国では、魔術、剣術、拳闘、乗馬、学門。この五つは貴人の五大教養とされているのは知っているわよね」
「ああ、人の上に立つ者は文武両道たれ、というのが古典的な帝国貴族の伝統だと、ナーブレス公爵家のお嬢様に教えてもらったよ」
「ナーブレス家のウェンディ嬢ね。彼女の認識は正しいわ。高貴なるものに伴う義務をまっとうするために、文武ともに精進を怠るわけにはいえないの。この国にはない異国の武術。ぜひ教えてちょうだい」
「尚武の気風が悪いとは言わないが、人の上に立つ者ならば個の力を磨くよりも衆を率いる智恵を得るほうが有意義では。ウェンディにも言ったことだが、剣はひとりの――」
「剣一人敵、不足学。学万人敵」
「おおう」
「剣術はひとりの敵にもちいるものだから学ぶほどの価値はない。統治者はひとりで万人にあたる政治や軍略を学ぶべきである。と言いたいのでしょう。まえにあなたとおなじ東方出身の剣士におなじことを言われたわ。彼は異邦人ながらも帝国のために軍人として尽くしてくれたけど、テロリストの凶刃に命を奪われた。今となっては彼の技を継ぐ者もなく、強引にでも彼を説得して教えてもらわなかったことを悔やんでいるわ。……個人の武勇が無価値だとは思わない。武とは戦いを止める仁義の心。武芸を極めてこそ暴力を止め、仁義の心を世に広げられる。おのれの身ひとつ守ることができなくて、どうして無辜の民人を守ることができるでしょう」
「仁義とは?」
「弱気を救うのが仁、己を捨てるのが義。これぞ仁義!」
(この女、侠の心がわかっているじゃないか)
日頃から君子ぶっている秋芳ではあるが、儒者の教えよりもこの手の侠客の科白のほうが心に響く。
「そこまで言うのなら……。それに実は俺もこの国の武術をはじめ、文化や芸術に興味があるんだ。ロイヤルプリンセスともなれば教養豊かで、さぞや古典芸能に通じているだろう。こちらも教える、そちらも教える。これでも
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