晩餐会 1
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創設された美術館は世界屈指の美の殿堂かと」
「そうだろうとも」
「孫の小プラド公の収集したプラド七品のなかでも六英雄激闘図は傑作中の傑作だと世間では言われていますが、私はロイド聖賢図に描かれた庭園に惹かれます。あの絵に描かれた、たくさんの花々。鮮やかな色使いが美しく、まるで匂いまで伝わってくるようで、彼の技術の高さを感じます」
「リタースングラードの戦いについて、どう思われますか?」
「レザリア王国はロヴパフの家を手に入れるため、首都を陥落させるよりも多くの兵を失いました。アートレム劇場で公開中のメアリ=クライタの作品にそのあたりの顛末が描かれており――」
「ムーア様式の復刻についてだが」
「サンメザーノ宮殿に見られる東西の文化の融合を体現した建築様式は荘厳にして可憐、幻想的で洗練された摩訶不思議さに見る者を呆然としてしまうとか。聖エリサレス教と多宗教が平和に共存していた頃の名残ですね」
「騎士爵殿はアルザーノ魔術学院に通っているとか。第七階梯のセリカ教授の『平行世界における相互時間流に関する第三者視点からの思考実験』について学ばれたことは?」
「初歩の初歩なら。この論は時間という概念に関する哲学の二大潮流が主軸となります。このふたつはご存知ですよね」
「ああ、たしか……」
「循環的時間と直線的時間です。いっぽうには永遠に循環する時の円環が存在し、もういっぽうには不可逆一方的な時間の直線があり――」
陰陽師はたんなる呪術者ではない。博物学者でもある。秋芳はときにこちらの知識を試そうと意地悪な質問してくる出席者たちとの問答で恥をかくことなく、ひととおりの基礎知識≠披露して社交辞令をすまし、隅にあるバーカウンターに身を寄せた。
「作ってもらいたい酒がある」
「なんなりとおもうしつけください」
「そこのカップに薄くスライスしたオレンジの皮、ジンジャー四枚、スプーン一杯の蜂蜜を入れて、ブランデーと温かい紅茶を半々で注いでシナモンスティックを挿してくれ」
「それは……、はじめて聞く飲みかたですね」
「デザート代わりの食後酒さ」
琥珀色の液体からふわりと立ち上がる芳醇な香り越しに見れば、レニリア姫を中心とした人の輪ができていた。
豪奢にして繊細なまばゆい金髪に白磁のような肌と長いまつ毛に縁どられた蒼氷色の涼やかな瞳。
プリンセス・オブ・プリンセス。
数多の受賞者達よりも公務に出席した王家の人間が会場の華なのだ。
この場での顔合わせを機会に色々と便宜を図ってもらいたいと願う者は多いだろう。
「金髪に合わせた黄金のティアラと瞳に合わせたブルーのチュールドレス。クリスタルがふんだんにあしらわれたデザインは上品で存在感も抜群。だが、いささか華美に過ぎるな」
「まぁ、シーホーク
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