両面宿儺
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の木なのかなぁ…君、見た事あるかい?」
「―――人面樹」
俺はこの木に見覚えがあった。
玉群の庭師である親父の言いつけで、俺も玉群家の庭を手入れすることがある。とはいえ、俺が任される手入れなど雑草抜きくらいなのだが。
『奉』の契約で永らえているあの家はやはり何処か歪んでいるのだろう。よく手入れされた庭木の合間に、この世のものならざる植物が混じる。俺の仕事はそれらに触れないこと。あると知りながら無視し続けることなのだ。
だから俺はその触れてはいけない植物の名前と姿だけを教えられる。
だから、俺は―――。
「大勢の人が死んだ場所の養分で育つ、低木だ。…花の段階から、この顔はあっただろう。そのうちの幾つかは落ちたはずだ」
「ほー……」
「笑い過ぎてな。…この実は食うことも出来るが、妙に舌に残る気味の悪い甘みと生臭さがあって旨いとは云えないねぇ…」
「詳しいねぇ。驚いたよ!」
薬袋は目を輝かせて俺を覗き込んで来た。
「驚いてんのは俺のほうだよ…」
―――俺は何故、人面樹の事を知っている!?
俺はあの奇妙な植物群について、名前しか知らされていない。俺自身も知ろうとしなかった。知れば庭師を継がされる…というか玉群から逃げられなくなると本能的に感じていたからだ。だが俺の口から、人面樹の知識がとめどなく溢れてくる。
「食べられるのかぁー、じゃ、このままにしておいても大丈夫だね!」
「…そうじゃねぇよ。聞いてたろ、この下には恨みを持った死体が埋まっているんだよ…」
間違いない。俺は確信していた。
人面樹の事を知っているのは俺じゃない。
人面樹についての知識を持ち、薬袋に語っているのは。
「これ、花や実をつけ始めたのは最近?」
「えぇ、うん…それまでは全然、こんな木があったことに気が付かなかったからね…?」
薬袋が俺を、何か不審な生き物を視るような目で観察し始めた。俺は…頭の中に浮かび上がってくる一つの『憶測』を、ぐっと呑み込んで、薬袋からすっと視線を反らした。見上げた先には、口角を上げた人の顔のような実が、房のように実っている。柑橘系の、黄色を帯びた、風もないのに微かに揺らめき続ける、厭な果実が俺達を凝視して嗤っていた。
…俺は危うく、この男と無防備に慣れあうところだった…。
「人面樹が人を襲うという話は聞いたことはないが、何しろ稀な樹だからねぇ。襲う奴もいるかもしれない。それに放っておくと、声とか出しはじめるかもしれん。…西洋にもあるだろ、人間に似た感じで、叫ぶ奴が」
「ははは、マンドラゴラとかのことかい?」
「人の造形を真似てるってことは、そのうち機能も真似し始めるかもしれんだろうが」
「そうかー、声はまずいねぇ。どうしようかな…声を出し始めたら考えようかなぁ…」
「俺
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