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霊群の杜
両面宿儺
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床を蹴って手を広げて飛びついてきた変態センセイを半身になって躱し、うなじを手刀で打ち落とすと変態はドシャリと崩れ落ちた。



「相変らず用心深いんだね、君は」
「用心云々の問題か。自分の職場で野郎とハグとか正気か貴様」
危うく例の地下霊廟に通されるところだったが、必死の抵抗により今朝空いたばかりの病室に通された。…ここを使っていた患者が亡くなったとのことなので良い気分ではないが、あの部屋に一人で通されるよりは万倍ましだ。
「僕は一向に構わないのに。君は心配性だな」
「冗談じゃない。この辺は知り合いも多いんだ」
誰も居ないベッドに転がされたナースコールをさりげなく傍に引き寄せ、傍らに設えられた小さいテーブルにつく。
「さすが抜かりないいぃぃ!!ナースコールいっちゃう??無人の病室からナースコールいっちゃうの??うちの病院にこれ以上幽霊話増やしちゃう??」
「やっぱりあるのか、厭なこと聞いたな…」
そりゃ、地下の円筒水槽で母子の死体が泳いでるような怪病院に怪談の10や20なければおかしいのだろうが…。
「で、今日はどうして彼はついてこないんだい?喧嘩でもしているのかい?」
薬袋は張り付くような微笑を浮かべて身を乗り出してきた。…彼は何も知らないのだ。
「いや別に。…あんたこそ、奉には声かけなかったのか」
「うーん、けんもほろろだったよ!」
「………容赦ないなあいつも」
品の良い白いカップに琥珀色の紅茶が注がれる。俺は念のため砂糖やミルクの存在は無視して引き寄せ、軽くすすった。…薬品の匂いはしない。
最近、俺の用心の方向が『殺されはしないだろうが…』になってきた。薬袋が俺達の存在を快く思っていることは間違いない。ただ…それが『自由に動き、食べ、話す』人間としての俺達かどうかは分からないのだ。例えばそれが変な薬を盛られて要介護
状態の俺達を愛でる…とかでもこいつの友達欲求は満たされるのかもしれない。何しろ気に入った母子をホルマリン漬けにして愛でていた変質者なのだから。
ただ薬袋は今日、俺に相談があると云っていた。今日に限って云えば、俺が不具者にされる理由はない。
「で、今日の相談って俺で大丈夫なの」
昨日人が死んだ病室で男とお茶会する感覚が全然分からないし、もう早く帰りたいのでとっとと用件に入る。正直、聞きたくもないんだが。
「うん。むしろ今日は君の方が有り難いな」
紅茶に二つ目の角砂糖を落としてかき混ぜながら、薬袋が微笑を浮かべた。
「植木屋さんの跡継ぎでしょ、君」
「継がないよ」
「でも詳しいでしょ」
「……まぁ、多少は」
カップの中でくるくる回していたスプーンをふっと止め、薬袋はベッドの方向…窓の外を眺めた。
「なんか最近さ、病院の裏手に変な木が生えて来てるんだよねぇ」
―――普通に植木の相談
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