両面宿儺
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るのは俺だけだ。もし彼らに…主に鴫崎に知られたら、奉は完治を待たず再びフルボッコにされることだろう。…まぁ、公平に見れば奉にしてもとばっちりみたいなものなんだが。
「なーんか足が向くというか…その割には行ったところで玉群と二人きりがめっちゃ気まずいし、ちょいちょい会う鴫崎はいっつも怒ってるし荷物運びを強制的に手伝わされるし、縁ちゃんが居た時のアタリ感半端ないし」
―――良かったな鴫崎。荷運び要員が増えて。
「奉は置物だとでも思っていればいい。縁ちゃんには手を出すなよ」
「………ふぅん」
何かを見透かしたように、今泉は肩を竦めた。
「………あのさ、云っていい?」
「駄目だ」
「あそう…」
それ以上、今泉は縁ちゃんの事については突っ込んでこなかった。
―――正直、興味はあるのだ。
俺ですら靄がかかったように定まらない縁ちゃんへの感情を、今泉はどう解読しているのだろうか。…我ながら野暮だ。どうにもならなくなったら聞くことにしよう。今泉がこうして俺の隣に居るということは、自分で思うほど最低な感情を抱いているわけではなさそうだし…。
「真面目だからなぁ…」
俺が、ということだろうか。本当に、何度云っても主語がない男だ。
「右に縁ちゃん、左に八幡ちゃんを抱えてハーレム新婚生活を送りたい…そんな本心を自分でも掴み切れずに…」
「だいぶ最低だったな!!俺、そんなこと考えてたの!?」
「え?最低?お前さ、フツーにハーレム願望とかないの?今まで全然?」
「え?絶対面倒くさくね?絶対喧嘩になるし、表向きは仲良しでも水面下ではドロッドロなことになるし」
「……お前の女性観、リアルだよね。姉ちゃんいるからかな」
「……ああ」
ふと携帯に目を落とすと、11時を過ぎていた。俺は『寄る所がある』と云って河原を離れた。
「待ってたよ」
高い吹き抜けの螺旋階段から、さっくりと朗らかに声を掛けられた。俺は声の主を見上げて軽く会釈をする。
ガラスの壁面と高い天井、薄いベージュ色を基調とした広い待合スペース、センス良く配置された観葉植物…この近辺でここまで立派な病院はあるまい。…ちなみに院内の観葉植物を手配しているのは俺の実家だ。
「毎度、ご利用ありがとうございます」
「ははは…なんか癒着っぽいね、君と僕が『友達』なんて」
「はは…完全に卵が先の鶏なので…」
変態センセイ…薬袋は本当に大事そうに『友達』という言葉を繰り返す。
「しかも用心深い君が単独で…今日は記念すべき日だよ!」
変態センセイがお花畑全開の笑顔で駆け寄ってくる。全力疾走で逃走したい気持ちをぐっと腹に収めて、俺はしっかりと薬袋に向き直った。…駆け寄ってくる。速度が衰える気配がない。まだ駆け寄ってくる。
「ハグしよう友よ!!」
「断る!!!」
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