第六章 オールアップ
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で死にそうなのに。
自宅から遥々と川まで行って、土手を走って、戻ってくるなど、正気の沙汰じゃない。
休ませてくれ……
でないと、死ぬ。
いっちに、
いっちに、
いっちに、
いくぞお、おーっ
相変わらず、元気よく声を出しているのは敦子だけで、残る三人は、
ひっひはいいあああ、
いっひひゃっひ、
いっひりっひゃ、
親が見たら泣きたくなるであろう、実に情けない有様だった。
「があ、あ、あつっ」
敦子殿はっ、はしりる、走れる、から、いいけど……
くそ、喉が焼ける……
敦子は、声優を目指すためにジョギングと筋トレを日課にしているくらいだから、しっかり走れるのは当然というものだろう。日々の努力が偉いわけであり、ズルイとは違うのは定夫にも分かるが。
とはいえ別に彼女もアスリートを目指しているわけでなし、やはり定夫たち三人があまりにも酷いというのが、この能力差を生み出している主要因だろう。
酷いのも当然である。なにせ定夫たち三人は、CDケースを持ったり、USBメモリを挿し込んだり、リモコンのスイッチを押したり、せいぜいそんな程度にしか自らの筋肉を使ってこなかったのだから。
苦しいのも、走れないのも、千鳥足なのも、当然なのである。
敦子の指導による体力作りを始めてから、もう一週間。少しくらいは体力がついているのかも知れないが、回復しないうちに翌日のトレーニングを迎えるものだから、ぱっと見には日々酷くなってさえ行く有様であった。
「しょうがないなあ」
また敦子は振り向いて、しばらくもも上げを続けていたが、三人が右に左にふらふらしているだけで一向に近寄ってこないことに、諦めたか動くのをやめた。
「じゃあ、ちょっと休憩しますか。それから、ついでというわけじゃないけどここで発声練習をしましょう」
と、女神様から救いの言葉が投げ掛けられた、その瞬間である。
三人の男たちは同時に、路上にぶっ倒れていた。
頭から。
ごちっ、と凄まじい音を立て、額をアスファルトに打ち付けていた。
受け身を取る体力すらも、残っていなかったのである。
痛みを感じる体力すらも、残っていなかったのである。
定夫はごろり上を向くと、大の字に寝転がった。
トゲリンも、八王子も、同じようにごろり。
ぜいはあ、
ぜいはあ、
はあ、
はあ、
はあ、
広がる空を見上げ、いつまでも苦しそうな表情で酸素を求める定夫たち。
はあ、
はああ、
ぜいぜい、
ぜい、
……そして十五分の時が経過した。
ぜいぜい、
うおお、
はあ、
はあ、はあ
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