第六章 オールアップ
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、手にした本を身体の中に巻き込むようにして回転レシーブよろしくごろり床に転がった。
ボギリ。
「手ギャハイヤアアア!」
以前に不良生徒に蹴られねじられ、バレーボールのスパイク直撃を受け、ようやく治りかけていた手に、肥満した自らの全体重をかけてしまったのであった。
3
落ち着かない。
落ち着きがない。
そわそわ、そわそわ。
パソコンに繋がっていないマウスのボタンを、意味なくカチカチ押したり。
肩を左右に揺らしたり。
落ちたフケを下敷きで集めたり。
鼻毛を抜いて数えたり。
逆でもなんでもないのに、言葉の頭に「ぎゃ、逆にいうとっ」などと無意味に付けてしまったり。
なぜ落ち着かないのかというと、理由は明白。
沢花敦子と二人きりだからである。
女子と二人きり、しかも自分の部屋、という生まれて初めての体験に、定夫は興奮し、緊張し、すっかり落ち着かない精神状態に陥ってしまっていたのである。
ここはアニメ制作本部である、山田定夫司令官の自室。
沢花敦子が声の収録のために仲間に加わってから、はや数日が経過していた。
八王子は池袋の本屋へ行くため、今日はここへこられない。
トゲリンは、用事を済ませてからくる予定。
つまり、現在この部屋にいるのは、定夫と敦子の二人だけ。
壁を破壊して部屋を拡張して構わないなら、その壁の向こうに現在もう一人いるはずだが、代わりに定夫が地球の果てまで吹っ飛ばされることになるだろう。
つまり、やはりここには二人きりで、そうである以上は興奮緊張してしまうのも仕方ないのである。
仕方ないといっても、対する敦子の方はそんな心の機微とは一切無縁のようで、先ほどから学校の制服姿で床に正座して、パソコンモニターに映るアニメ動画をじーっと観ている。
彼女にお願いされて定夫が再生したものだが、なんでも自分の演じるキャラをもっと理解したいためとのことである。
これで何度目の観賞であろうか。
その都度、定夫はびくびくしてしまうのだが。
敦子が仲間に入ってからまだ日も浅く、役割としても声のみの参加。他人、という関係では既にないものの、少し離れた存在であることに違いはない。
という関係性の彼女に、自分たちの作ったアニメをじーっと観られているということが、どうにもダメ出しされているような気がしてしまって、つい緊張してしまうのである。
まあ定夫の場合は単に、じょじょじょっという緊張の方が大きいのかも知れないが。
さて、パソコンに映っていた動画の本編部分が終了して、黒い背景にスタッフ紹介の字幕が表示されている。
音は無い。
完全な無音である。
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