第六章 オールアップ
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があるからアニメ声か?
否である!
千年前、一万年前、一億年前に生まれていようとも、アニメ声はアニメ声なのだ!
ビッグバンで宇宙が創生された時からの、永遠の法則なのだ!
「告白しちゃえば、いいんじゃないですかあ?」
「んな正直にいえるわけないだろ」
「いつもひねくれているんだから、こういう時くらい素直にならなきゃあ。わたしが伝えてあげますから」
しかし凄いな、沢花さん。一人で何役もの演じ分けが出来ているし、一役一役にしっかり魂が込められているのが分かる。
素晴らしい演技だ。
見習えい!
優れてもいないのに声優などといわれているバカ者ども!
見習う気が毛頭ないのなら、せめて声劣といいかえろ。
……などと心に吠えてみるものの、自分たちがまさにその声劣なわけだが。
定夫は、ちらと沢花敦子の横顔を見た。
台本を片手に、完全に入り込んでいる彼女の真剣な顔を。
黒縁眼鏡に、ちょっとニキビやソバカスが目立つという程度の、他に特徴という特徴のないどこにでもいそうな、ごくごく地味なその顔が、なんだかちょっぴりほんのりほんわか天使に思えてきた山田レンドル定夫、十七歳の秋であった。
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「沢花さん、やっぱり別録りにする?」
休憩の最中に、八王子が不意に敦子へと尋ねた。
「ああ、はい、それでお願い出来ますか? まだまだ修行の身。感情移入には、妥協したくないですから」
なんの話かというと、もちろん吹き替えの話であるが、複数キャラを同時に吹き替えてしまうのか、それともキャラごとに一回ずつ吹き替えて重ねていくか、どちらにするかということだ。
先ほどは担当全キャラ並列で器用に吹き替えていた彼女であるが、本番ではもっとしっかり魂を込めたいということなのだろう。
野菜のような名前の宇宙人が主人公の格闘冒険アニメの担当声優のように、まるで混乱することなく楽々と複数キャラを演じられる神のような人もいるが、彼女にはまだそこまでの経験も自信もないし、別録りにすることで、しっかり感情移入をしているんだという自覚を持ちたいのだろう。
沢花敦子のプロ顔負けのこだわりに、地味ながら清々しい感動が熱く全身の血管をめぐる定夫であった。
その清々しい感動を、興奮したようなネチョネチョ声がすべて吹き飛ばした。
「さ、さわっ、あ、敦子殿っ! これ、このイラストの声っ、なんかっ、アドリブでっ」
がさごそバッグから取り出したノートを広げると、なにやら鉛筆描きの女性のイラストが。
水着アーマーを着て、大刀を背中に佩いた女戦士が、荒野の中、巨岩に腰掛けている。すぐ横には、ボールのような毛むくじゃらの妖精。
沢花敦子は難しい顔になって、
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