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嗤うせぇるすガキども
戦車は愛と正義を否定する 中編
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て、目にもの見せてやるだけだ。
 あっさりと考えを変えてしまう玖波。
 少年悪魔は、どこまでも無表情のからくり人形で居続ける。
 どこまでも……。

「ならば答えよ、四番目の試練とはいったい何だ?」

 さっきまでの怒りはどこへやら。玖波はすっかり調子づいている。

『1,000m競争でございます』
「は?」

 今までが今までだけに、これとて単に1,000m走っておしまいなどと言うものではないはず。
 しかし、今度は「達成可能な試練」なのだ。
 いたずらに疑心暗鬼に陥っても仕方ないと玖波は思う。
 だから今度こそ望みが叶うと、玖波はあくまで上機嫌だ。

「ふん、そんなの1,500mで16分台出せる僕には造作ない」
『では、陸上競技で頂点を目指されてはいかがかと』

 少年悪魔は、無表情なまま首をかしげてたずねた。
 玖波の返答は、まことに巫山戯たものだった。

「陸上じゃ、世界一の男になれないじゃないか。
 僕がほしいのは、世界一の偉業と名誉だ。世界最強の人間になりたいんだ。
 それには、女しかいない戦車道の世界に、唯一の男として乗り込むしかない。
 他の男とちまちま競争するのは、庶民の男どもがやっていればいい。
 奴らには努力しか手段がないのだから。
 僕には才能がある。それを活用できる権力も財力もある。あとは世界一になるだけだ」

 自分に酔いしれる玖波をよそに、少年悪魔はやっぱりあいかわらず無表情のままだ。
 ただ立っている有様は、子どもをかたどったマネキンのようにさえも見える。
 もはや玖波の話を聞いているのかさえ定かではない。
 ここまで反応がないのも、よけい玖波のいらいらをあおりたてる。

「何をしている。さっさと僕を競技場に連れて行け」

 少年悪魔はなおも無表情のまま、何かの呪文を唱える。
 今度は光ではなく、彼らの周囲から気味の悪い色をした煙がわき上がり、部屋に充満する。
 その煙もほどなく晴れる。
 そのあとには、誰もいない部屋が残る。






「……よりによってここかよ」

 玖波の第一声はそれだった。
 さもありなん。ここは始まりの地、聖グロのビクトリアン・ホールの真ん前なのだから。

『ここからちょうど1,000m走っていただけば人工林を抜け、艦首の市街地に抜けられます。そこまで無事にたどり着くことができれば、壁暁様の勝ちです。ただし……』

 ただし?
 やはり留保条件付きか。やれやれと思う玖波。
 まあ「無事にたどり着ければ」のくだりでお察しだが。

「で、なにが僕の行く手を妨害するのだ?」
『……聖グロの歩兵戦車5両でございます。
 巡航戦車は出てまいりません』
「ほう……」

 歩兵戦車か……。
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