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レーヴァティン
第四十五話 傾奇者その十一

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「強いことは紛れもない事実なので」
「蛟から龍になるからのう」
「迂闊には戦えない相手です」
「巨人よりも強いか」
「確か。ですから」
「ははは、そこまで格がある者が人なぞ襲うと思うか」
 ここで不意にだった、良太の今の話に応えるかの様に琵琶湖から低く太い男の声がしてきた。そうしてだった。
 琵琶湖の水面から不意に龍に非常によく似た、だが髭はなく幾分格が落ちる感じの頭が出て来てだった。一行に言ってきた。
「龍になろうという者が」
「貴殿がその蛟ですか」
「如何にも」
 蛟は謙二の問いにすぐに答えた。
「わしがこの琵琶湖の蛟の一匹じゃ」
「左様でしたか」
「この琵琶湖にいる龍の弟子の一匹でな」
「今龍になる為の修行中ですか」
「そうじゃ、そしてわしの他にもこの湖には蛟がいるが」
 蛟は一行にさらに話した。
「どの蛟も人には興味がない」
「修行に専念していますか」
「その我等が人を襲うなぞ有り得ぬ」
 こう断言するのだった。
「断じては」
「ではでござる」
 蛟が嘘を言っているとは思えなかった、その断言とそこにある誇りを見て。だが智はその蛟にあえて問うた。
「人を襲うという話は」
「この辺りを賊達が通り成敗したのがな」
「人を襲ったとでござるか」
「言われたのであろう、この琵琶湖にも魔物がおるが」
 このことは紛れもない事実だとだ、蛟も認める。
「しかし人を襲うなぞということは我が師が許されぬ」
「琵琶湖の龍が」
「湖の主がな」
 まさにその彼がというのだ。
「決してな」
「ではこの湖は」
「安心してよい」 
 安全だというのだ。
「だから泳いでも構わぬ」
「左様でござるか」
「何時でもな。しかし今は寒い」
 蛟もまた季節は感じている、それで彼等に言うのだった。
「だから入らぬ方がよい」
「泳ぐに冬は身体に毒であります」
 峰夫も行った。
「だからでありますな」
「わしは勧めぬ、しかし怪しい噂はな」
「否定するでありますな」
「お主達にも真実を知ってもらいたい、この島ひいては世界を救うという話は既に風の噂で聞いておる」
 英雄達のそれもというのだ。
「ならば真実も知っておくことだ」
「確かにな。いらぬ戦をしたり民に間違ったことも教えてしまう」
「琵琶湖の周りの民達でも誤解しておる者がおってな」
 蛟は今度は迷惑そうに述べた。
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