475部分:第三十七話 桜を前にしてその九
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第三十七話 桜を前にしてその九
「その味は非常にいいです」
「そうですか。それは何よりです」
「このこともわかりました」
微笑みつつ述べていく真理だった。
「食べるものは。舌だけで味わうものではなく」
「心でもですね」
「俗に目でも味わうものとは聞いていました」
「しかしそのことはですか」
「言葉ではわかっていても心ではわかっていませんでした」
「ですがそれでもですね」
「はい、わかりました」
そうしたことがだ。わかったというのだ。
そしてだ。さらにだった。義正にこう話したのである。
「そしてやはり。心でもですね」
「味わえますね。確かに」
「様々なことが。見たり聞いたりするだけでなく」
「心でも」
「そのことがわかったのです」
こう言ったのである。真理は。
「それがとても嬉しいのです」
「そうなのですか」
「ですから。最後の桜は」
それもだというのだった。
「心でも感じたいです」
「そうですね。心でも」
「桜を。三人で」
心からも見て感じたいというのだった。
そうした話をしつつ紅茶を飲み終えて。真理はだ。
義正にだ。安らかな顔で述べた。
「では。今から少し」
「休まれますか」
「そうしていいでしょうか」
「はい、どうぞ」
微笑みだ。義正も応えた。
「お休み下さい」
「あと何日位でしょうか」
桜が咲く時も尋ねた。
「その時は」
「そうですね。三日ですね」
「三日ですか」
「はい、三日です」
それだけだというのである。
「三日お待ち下さい」
「それだけ待てば本当に」
「桜が咲きます。遂に」
「本当に遂にですね」
「三日。頑張れるでしょうか」
「大丈夫です」
それもだ。いけるという真理だった。
「それだけでしたら」
「それならば。では」
「はい。三日後に」
「桜を観に行きましょう」
こう話をしてだった。彼等はだ。
その桜が咲く時を待った。しかしだった。
真理はだ。さらにだった。病状が進んだ。喀血の回数が減りだ。
ベッドから完全に起き上がれなくなっていた。その彼女を見てだ。
真理の両親達もだ。いよいよ暗い顔になり言うのだった。
「もう真理は本当に」
「今にも」
「この世を去るのではないのか」
「これでは」
「いえ、大丈夫です」
しかしだ。義正だけがだった。
確かな顔で微笑みだ。真理の両親に言うのだった。
「桜が咲くまではです」
「真理は生きているというのか」
「そうなのですね」
「そうです。あと僅かです」
言いながら屋敷の中から庭を見た。二人は娘を見舞いに来ていたのだ。
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