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儚き想い、されど永遠の想い
472部分:第三十七話 桜を前にしてその六
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第三十七話 桜を前にしてその六

「そうします」
「私もまた」
 その真理に寄り添ってだ。義正は。 
 彼女を護っていた。僅かな時間を必死に生きようとしている彼女を。
 真理の喀血はその回数も量も増えていっていた。その中でだ。
 次第に、しかも急激に衰弱していきだ。遂にだった。
 ベッドから起き上がれなくなってもきていた。その彼女を診察してだ。
 医師はだ。こう義正に話したのである。
「今生きているのが不思議な程です」
「では今にも」
「はい、亡くなられても不思議ではありません」
 これが義正に話すことだった。
「本当に驚くべきことです」
「そうなのですか」
「ですが。あと僅かですね」
 穏やかな顔になり述べる医師だった。診察の後の強張った顔から。
「桜が咲くまでは」
「本当にその通りですね」
「ですから」
 それでだというのだ。
「奥様にお伝え下さい」
「もう少しだとですね」
「蕾が出てきました」
 医師も見ていた。桜のそれを。
「ですから本当にあと少しですから」
「そうですね。では」
「もって。後数日ですが」
 期日は短かった。
「若しかすると今にもです」
「倒れてもですか」
「本当に不思議ではありません。いえ」
 医師は言葉を訂正した。己のその言葉を。
「既に冬にはです」
「倒れていてもですね」
「おかしくはなかったのです。今春を過ごしていることさえも」
「奇跡ですか」
「素晴らしいことです」
 奇跡をだ。こう表現して義正に話すのだった。
「最初は私はとても無理だと思いました」
「妻が桜を見ることは」
「それだけ重い御病状ですので」
 そのだ。労咳の中でもだというのだ。
「ですから。まことに無理だと思っていましたが」
「ですが。あと少しまで」
「それならです。あと少しだけ頑張られれば」
「桜を見られますね」
「その通りです。ですから私は言いたいのです」
 真理にだ。義正を通じてだがそれでもだ。彼女に言いたいというのである。 
 そうしてだ。義正はだった。
 医師にだ。こう話したのである。
「妻に。桜まで」
「少しだけではなくです」
「生きていて欲しいですね」
「その通りです。私も心から願っています」
「有り難うございます。ですが」
 義正は医師の心を受け取った。そしてそのうえでだった。
 彼にだ。優しい笑顔でこう話したのである。
「妻は死ぬのではないのです」
「しかしもう」
「身体はなくなります」
 優しい笑顔のままでの言葉だった。
「しかしそれでもです」
「わかりました。魂はですね」
「それは生き続けます」
 わかりやすくだ。医師に話したのである。彼の、真理の今の考えをだ。
「ですから。妻は肉体はなくなってもです」
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