これが漢の戦車道 最終話
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5分もしたころ、まず一番頑健な戦争親父が目を覚ます。
時間差こそあれ、次々と起き上がるクルーたち。
「あーあ、ひでえ目にあった」
「まったくだ」
「銃殺刑なんて、公営競戦車道始まって以来なんじゃね?」
「おい新入り、いつまでも白目むいておねんねしてんじゃねー! さっさと起き……」
ドライバーが、鹿次の様子がおかしいことに気がついたのは、このときだった。
「おい、テメエ! しっかりしやがれ」
「どうしたんだよ」
「親父! こいつ息してねえ!」
戦争親父がすばやく駆け寄り、鹿次の胸に耳を当てている。
「やばい! 心臓が止まってるぞ!
おい、AEDもってこい。あとは人工呼吸と心臓マッサージだ!」
一人が競技本部にAEDを取りに行く。
戦争親父は、鹿次の胸に両手を当てて、懸命に押す。
「代われ! 肋骨が折れても構わん! 押しまくれ!!」
「救急車じゃ間にあわねえ! ドクターヘリの手配だ!」
「観客の中に医者はいねえか!? 非常事態だ!!」
競技場は、急に慌ただしくなる。
アルゲマイネもヴァッフェンも、その扮装のまま本来の職務に戻る。
N山競戦車場は、大混乱のきわみにおちいった……。
──数日後。
梵野興業株式会社の社長室に、子どもがふたり呼ばれていた。
まだ幼いと言っていい、姉弟のような二人連れだった。
優しそうな顔の社長は、中学1年ぐらいの少女と小学生らしい男児に、おだやかに話しかける。
「叔父さんは、本当にお気の毒なことをしました」
男の子がそれを聞いて、しゃくり上げ始める。
姉とおぼしき女の子が、彼をなだめる。
「たった3人のお身内だったそうですね」
「はい、親を亡くした私たちに、実の子どもであるかのように接してくれた、優しい叔父でした」
少女がそう言うと、男の子は声を上げて泣き出した。
強面そうな重役たちも、今日はなにかしんみりして悲しげだ。
「さいわいここに、黒木君……叔父さんが遺された生命保険金がある。
彼には返さなければならないお金があったから、それは引いたけど
それでもかなり残りがあった。これからの生活に役立ててください」
社長は必要があればいつでも仁王様になれる人物だったが、今日ばかりは優しい大人で通すつもりのようだ。少なくともこの子どもたちの前では。
子どもら二人は、保険金と鹿次の骨壺を大事そうにおしいただいて、社長室を辞去した。
何度も何度もお辞儀をして……。
「……それにしても黒木のあほんだらあ、あんな小さな子供ら遺して、あんな死に方しやがって」
一番情け知らずに見える坊主頭の巨漢が、ぼそりとつぶやいた。
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