これが漢の戦車道 A
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「やあ、あなたが黒木さんですね」
魔方陣の光が消えたあと、鹿次は新宿歌舞伎町にある「梵野興業株式会社」なるビルの前に立っていた。
二匹の悪魔はなぜかおらず、代わりに小柄で小太り、髪の毛をビジネスマン風になでつけたいつもニコニコしていそうなほど笑顔の似合う、スーツを着たお父っつぁんが立っていた。
だが、鹿次は、なぜがその人好きのする人物の目が三白眼になり、着流しの姿になって自分が日本刀でいきなり斬られるような幻覚を見た。
「ああ失礼。私はこういうものです」
お父っつぁんは、鹿次に名刺をさしだした。
それには「梵野興業株式会社代表取締役 梵野兵太朗」と書かれている。
ここの社長だった。
「まあ、中に入ってください。
君にはこれから戦車に乗ってもらわなければならないからね。
登録手続を済ませたら、すぐキャンプに行きましょう」
どうやら社長さんは、鹿次が来るのをみずから外で待っていたようだ。
しかし、人好きがするのは社長だけだった。
重役たちは、グラサンかけた百戦錬磨の雰囲気のただようおっかなそうな壮年、
やはりグラサンで坊主頭で迫力満点の巨漢、そして痛覚というものをどっかに忘れてきたような恰幅の良い人物。
社長の背の低さと腰の低さと良い人オーラがかえって引き立ってしまう。
「ベテランの一人が重い病気になって、引退しなければならなくなってね。
うちとしては黒木君の話は渡りに船でした。
よろしくお願いします」
鹿次のサインだけが入っている契約書2通を渡された社長さんは、ニコニコしながらそれを
受け取って、自筆でサインして社印社判を捺印すると、1通を鹿次に返した。
これで契約成立だ。
鹿次は、びびりながらそれを受け取った。
もちろん重役連も怖そうだったが、社長の「良い人オーラ」の後ろに見える、なんかすごく血なまぐさい雰囲気の方が恐ろしかった。絶対何人かあの世に送っていそうだ……。
それから、おそれおおいことに社長みずからベンツを運転して、鹿次をギャンブル戦車乗りの訓練と生活の場である、「キャンプ」と呼ばれる選手村につれていった。
おそらく寮であろう建物を通り抜けて、戦車を納めているであろうピットが建ち並ぶ一角に向かっている。
「君の部屋は、あとで寮長に案内してもらいます。
荷物一式はもう届いていますよ」
向こうの地球の、鹿次の部屋にあったお荷物は、悪魔のお嬢ちゃんがワープさせたらしい。
鹿次は、エロ本コレクションを見られたのではと心配したが、中身は4,000歳の婆様だったと思い出して、どうでもよくなった。
「つきましたよ。
欠員が出たのは、このピットのなかにある戦車のチームです
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