470部分:第三十七話 桜を前にしてその四
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第三十七話 桜を前にしてその四
その中でだ。義正は豆腐にまつわるこの話をだ。真理に話した。
「泉鏡花ですが」
「あの妖怪を書くことで有名な」
「はい、あの作家は御存知でしょうか」
「少し。読んだことがあります」
真理は泉鏡花も読んでいた。それで義正に答えたのである。
「あの人もまた」
「あの人もまたお豆腐が好きだそうです」
「そうなのですか」
「ただ。あの人は少し変わっている様で」
それで有名であったりする。泉鏡花は警官や犬を極端に嫌いそれにまつわる奇行もまた伝えられている。何かと個性的な人物なのだ。
その泉鏡花についてだ。義正は真理に話す。
「お豆腐もです。常に湯豆腐だそうです」
「夏もですか」
「はい、夏もです」
「それはまた変わっていますね」
「しかもです」
さらにあるとだ。義正は話していく。
「あの人は常にアルコールランプを持っていまして。旅行の時はそれでお水を沸騰させてから飲んだりしているのです」
「では飲むものもですね」
「常にお湯やそうしたものです」
「衛生管理でしょうか」
「以前病に罹ってそれ以降だそうです」
これは本当のことだ。泉鏡花はチフスに罹りそれからだ。彼は極端な細菌恐怖症になり豆腐や水をそうしって口の中に入れていたのだ。
そのことを聞いてだ。真理は話すのだった。
「夏にも湯豆腐とは」
「あまり聞きませんね」
「はい、どうも」
首を捻りつつだ。答える真理だった。
「そうした方もおられるのですね」
「実に変わっていますね」
「そう思います」
「実は春もです」
その春にだ。どうするかと話す義正だった。
「無論そうして食べていました」
「湯豆腐ですか」
「ですが春には春のお豆腐の食べ方がありますね」
「はい」
それはその通りだと。真理も答える。
「ではお屋敷に戻れば」
「その春を召し上がりましょう」
「楽しみにしています」
こうした話をしてだった。二人はだ。
屋敷に戻った。そのうえでその春の豆腐を食べる。そうしてからだ。
真理はだ。こう話したのだった。
「何か。それだけで」
「違いますか」
「そうです。また春を召し上がった気持ちになっています」
満ち足りた顔での言葉だった。
「とてもいいです」
「そうですか。それは何よりです」
「はい、それでなのですが」
「それでとは」
「まだ。桜まで時間があります」
僅かとはいえだと。彼は言うのだ。
「ですからここはです」
「何処かに行くのでしょうか」
「いえ、それは止めておきます」
真理の身体のことを気遣ってのことだった。外出はしないというのだ。
そのうえでだ。こう彼女に話すのだった。
「花道で、です」
「お花をですか」
「飾った花を持
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