467部分:第三十七話 桜を前にしてその一
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第三十七話 桜を前にしてその一
第三十七話 桜を前にして
医師はだ。沈痛な顔でだ。義正に告げていた。
診察室においてだ。こう告げたのである。
「最早です」
「最早といいますと」
「起き上がれないでしょう」
これが告げることだった。
「そして後です」
「桜まで大丈夫でしょうか」
「二週間、いえ一週間でしょうか」
「一週間、ですか。それでは」
「桜は見られないかも知れません」
義正にだ。絶望を告げたのである。
「残念ですが」
「そうですか・・・・・・」
「しかしそれでもですね」
「はい」
強い声でだ。義正は答えた。それでもだった。
「必ずです。妻も私もです」
「桜を御覧になられますか」
「二週間あれば」
「桜が咲くでしょう」
三月の終わりに入ろうとしていた。それならだった。
「二週間あればです」
「それなら。何とか」
「頑張って下さい」
義正だけでなく。真理にも告げた言葉だった。
「最早そうとしかです」
「はい、わかりました」
答える。そしてだった。
そのうえでだ。彼はこう医師に話した。
「必ず。桜を観ます」
「そうされますね」
「はい。ですが」
義正はだ。身を乗り出した。椅子に座っているがそれでもそうしてだ。医師に尋ねたのである。
「妻は。退院は」
「そのことですか」
「それはできるでしょうか」
「申し上げましたね」
こう前置きしてからだ。医師は彼に答える。
沈痛な顔だ。その顔で既に語っている。だがそれをあえて言葉として義正に話したのである。
「あの方は二週間、下手をすればです」
「一週間ですね」
「最早それだけしかです。時間がありません」
そうだというのである。
「それで退院はです」
「無理ですか」
「普通ならばです」
そしてだ。ここでこうも義正に話したのである。
「それは無理です。絶対に認められません」
「ですがそれでもですか」
「どうしてもですね」
義正の目を見ての問いだった。
「三人で。お子様も交えて」
「はい、三人で桜を」
「誰の命にも限りがあります」
こんなこともだ。医師は話した。
「そしてその限りある命の中で」
「その中で、ですね」
「何をするのかが大事ですから」
それでだというのである。
「奥様は退院されるべきです」
「そうしてですね」
「お屋敷でお過ごし下さい」
もうこの世での命が僅かだから、そうした意味もある言葉だった。
「そして思い出を築かれて下さい」
「桜も観てですね」
「是非。御覧になって下さい」
これが義正への言葉だった。
「そうして下さい」
「わかりました。それでは」
「明日。退院されますか?」
医師は具体的
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