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横須賀鎮守府の若き提督
1話
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 長い廊下を、一人の長身細身の男が歩いていた。

 黒い短髪に、精悍な顔をしており、一見すればそこら辺にいるような優しそうな青年だ。

 士官の黒い制服と帽子、そしてその胸には卒業をしたことを示す一輪の赤い花が付けられていた。

 表情は何処か緊張気味である。

 やがて、目的地に辿り着いたのか、とある部屋の前で立ち止まり、迷わずノックをした。

 ───コンコン

誰だ?

「卒業生、小川 浩輝です」

入れ

 扉の向こうから入室を許可されたので、気を引き締めて扉を開けると、執務机にほくそ笑んだ貫禄ある男が座って待っていた。

 帽子を取って小礼をし、そのほくそ笑んでいる顔を見つめ、言葉を待つ。

「よく来てくれた。小川卒業生。そこに掛けたまえ」

「失礼します」

「さて、先ずは卒業おめでとう。よく頑張ってくれた」

「ありがとうございます」

「君には沢山のお礼を言わなければならない。教官達の間違いを真っ先に指摘したり、部隊長や室長まで安心して任せることができた。それに......同級生や後輩たちにも遅くまで熱心に付き合って勉学を教えていたと聞いた。表から影まで、君の活躍は色んな人を助けてくれた」

「いえ、自分が勝手にしたことです。このような小さな功績に上官のような素晴らしい方の頭を下げさせる訳にはいきません。なので、頭は下げないでください」

 苦笑いをしながら、上官を宥める浩輝に「そ、そうか?」と、少し納得いかなそうだったが、上官は要望通りに下げようとしていた頭を上げた。

「でも、小さな功績ではないぞ。この学校生徒や教官達だって、君のお蔭で士官学校が快適に過ごせるようになったという声が多いのだ。周りに認められている功績を誰が小さな功績だと言うのだろうか。......君ぐらいしか言わないぞ。全く......」

「そ、そうでしょうか?」

「あぁそうだ。だから謙遜はせずに堂々としていろ。逆に誉めてるこちらが惨めになってくる」

「そうですか......では、その......ありがとうございます」

「うむ。では本題に入るとしよう」

 そこで、上官の雰囲気が変わった。

 ピリッとした鋭い空気が部屋に充満する。

「実はな、君に横須賀の方にある鎮守府の視察に行ってほしいのだ」

「......? 視察、というのは一月に一回鎮守府の方に出向き、正常に機能しているか確認するというものですよね? どうして自分みたいな卒業して間もないひよっこを?」

「いや、うーん......その、まぁなんだ。経験を積めということではないのか? 私は大本営から君を視察に行かせろとしか通達されていない。詳細は分からないが、とにかく、命令なのだ。すまないな」


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