461部分:第三十六話 遂に来たものその二
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第三十六話 遂に来たものその二
「それをね」
「梅ですか」
「去年も見たけれどそれでもね」
どうかというのだ。その梅がだ。
「僕も妻も。梅が好きだから」
「それでなのですね」
「それでどうかな」
義正は妹に問い返した。
「梅を観に行くのは」
「いいと思います。ただ」
「ただ?」
「梅ならです」
どうかというのだ。義美は梅ならとだ。
「ただ。御覧になられるだけでなく」
「香りもだね」
「あと。梅の実も召し上がっておられますか?」
梅干等だ。それはどうかというのだ。
「それはどうなのでしょうか」
「梅の実だね。それだね」
「はい、それは召し上がられていますか?」
「うん、食べているよ」
静かに微笑みだ。義正は妹に答えた。
「身体にいいのは知ってるからね」
「それはいいことです」
「少しでも。本当に少しでも長く」
義正の言葉は今では切実だった。その切実な言葉でだった。兄妹達に話すのだった。
「桜に近付きたいからね」
「だから梅をですね」
「梅もだね」
それだけではなかった。彼と真理が食べているものは。
「それだけを食べてはいないから」
「いいことです。梅はそれだけで素晴らしいお花ですが」
「ただ。奇麗で香りがいいだけじゃないね」
「命を永らえさせてくれます」
その滋養によってだというのだ。
「心は美と香りで癒してくれますし」
「それだけに素晴らしい」
「春のはじまりに咲いてです」
春、今の義正と真理にはとりわけだった。
とりわけ重要なことだった。春、ようやく迎えられた春を長く過ごすことは。
それでだった。義正は義美の今の言葉を聞きだ。そして言うのだった。
「そしてその春をだね」
「命を豊かなものにさせてくれます」
「命が生まれる春をさらにだね」
「そう考えています」
これが義美のだ。梅への考えだった。
義正はまだこの春には梅を見ていない。しかしだった。
彼はだ。その梅を目に浮かべつつだ。兄妹達に話した。
「では。今年もね」
「梅を御覧になられますね」
「そうするよ」
まずはこう義美に話した。そうしてだ。
兄達にだ。こうも話すのだった。
「では。また行って来ます」
「あと少しだ。頑張る様にな」
「桜までな」
「私だけではなくですね」
真理もだった。このことは言うまでもなかった。
そうしてだった。そのことを心で確めつつだ。
義正は屋敷に戻った。そうして真理のところに向かう。真理はその時はだ。
部屋の中、二人の部屋の中で和服を着てソファーに腰掛けていた。そこから窓の外を見ていた。その脚には膝掛けがありそれで温もりを保っていた。
その中でだ。彼は義正に顔を向けて言ったのである。
「お帰りなさいませ
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