第五話 闇の気配
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手を差し伸べる。
それは平等に、均等に、誰に強制される訳でもなく、ラインハルト自身が信じる眼差しに従って行動している。
人は、彼を『完璧超人』という。
あぁ、確かにラインハルト・ヴァン・アストレアは超人だ。誰よりも優れ、誰よりも力の愚かさを知っている。だから、ラインハルトは知らないんだ。
一つ、間違いを正そう。
確かに、ラインハルト・ヴァン・アストレアは超人かも知れない。だが、完璧な超人ではない。いや、そもそも完璧な超人なんて存在しないのだ。
彼は、ラインハルト・ヴァン・アストレアは…人の常人の心情を理解出来なかった。
理解しようとした。理解しようと努力した。だが、五歳の頃に剣聖の加護を授かった彼に常人の心情を理解するのは容易なことではない。
ラインハルトは幼少期から現在の人格を有していた。誰よりも優しく、呆れるほど強い。
だから…彼は理解できないんだ。
理解しようとしても理解できないんだ。
彼にとっての強さとは、祖母から継承された『呪い』でしかなく。
彼にとって弱さとは、自身の持ちえない『強さ』なのだから。
ラインハルトは完璧なフリをしている超人だ。
人としてズレた価値観を持ち、常人では計り知れない心の闇を抱いている。
彼の強さを理解するのは常人でも可能だ。だが、彼の弱さを理解できるのは常人では不可能だろう。
もし、仮に理解できるとするならその人間はラインハルトと同等の超人か…同じ心の闇を抱いた人間……はたまた、ラインハルトという存在を全く理解していないというのに、その存在を否定できる愚か者くらいか。
あの笑顔の裏に一体どれほどの闇を隠して持っているのか…。
それは家族、友人、他人には決して理解できない闇であり。
本人でさえ把握し切れていない。
最強の騎士 ラインハルトは誰よりも働き者だった。
いや、働き者というのは語弊かも知れない。彼は、自分に出来る事しかしていないのだから。
祖母から剣聖の加護を継承し、五歳の頃から剣聖としての活躍を強いられた彼の日常は想像を絶するものだ。
誰よりも強く、誰よりも優しく。
この二つの教えを徹底し、ラインハルトは育てられた。
強くなければ自分に存在価値は無い。子供の頃から、そう教わってきた。
自分は特別な人間だ。だから誰よりも強くなくてはならない。誰よりも強く、優しくなくてはならない。ラインハルトは自身を軽蔑する。
自分は未熟者、皆はもっと努力している。僕の力は仮初、借り物の力だ。
そうやって自分を戒め…彼は生き続けてきた。
ラインハルトは誰よりも強くなろうと努力した。
剣聖の加護を授かったその日から誰よりも強くなろうと努力し続けてきた。
完成された肉体と加護の能力だけに囚われず、もっと自分だけの力を磨こうと努力した。
だが、違う。
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