454部分:第三十五話 椿と水仙その五
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第三十五話 椿と水仙その五
「どうでしょうか。この考えは」
「はじめて聞く考えですね」
老人にしてもそうだった。それで言うのだった。
「魂は幾つにも分かれ人の中で生きていく、ですか」
「無論六界も巡り輪廻転生もあるでしょうが」
「それは死ではなくですね」
「生きていることだと思います。肉体がなくなるだけで」
「肉体は必ず滅します」
仏教的な考えをだ。老人は話した。
「ですが魂は不滅ですから」
「はい、だからこそです」
「椿の様に落ちても」
それでもだというのだ。
「それから新たな生がはじまるのです」
「ではヴィオレッタ=ヴァレリーが言った」
「彼女は最後に自分はまた生きると言いましたが」
「愛する者の中、でなのですか」
「そういう意味だったと思います」
「成程」
そこまで聞いてだ。老人はだ。
深く考える顔になり椿を見た。そのうえでだ。
顔をあげてからだ。義正にこう話したのである。
「そういうことだったのですか。あの言葉は」
「私も今そのことがわかりました」
「ではヴィオレッタは死んだのではなく」
「アルフレードの中に入ったのです」
「椿は落ちました」
椿姫のだ。その椿はだというのだ。
「ですがそれでもです」
「新たな椿が幾つも咲いたのですか」
「幹や根、それは愛だと思います」
「愛があるからこそ人はその人を忘れない」
「だからこそだと思います」
「私はこの歳であらたなことを知りました」
老人の目が晴れやかになっていた。そうしてだった。
義正にだ。こう話したのである。
「椿は儚い花ではなく」
「冬でも咲く命の豊かな花なのです」
「そうなりますね。ではです」
「はい」
「この。命達を御覧になって下さい」
「有り難うございます。それでは」
「お茶も用意しています」
茶道の家元としての言葉だった。
「冬です。寒いですから」
「冷えればその時にですか」
「奥様は。見たところ」
老人は真理も見た。そして彼女のその顔を見て言ったのである。その雪の様な白い顔をだ。
「御身体が悪いですね」
「はい」
真理がだ。小さく頷いて答えた。
「私は今は」
「そうですね。だからこそですか」
「椿を」
「私が言いました」
また義正が話す。
「そうしようと」
「いいことでしたね」
「いいことでしたか」
「私はそう思います」
老人は温かい声で話していく。
「まことに。ではです」
「お茶もですね」
「はい、飲みたいと思われる時に仰って下さい」
このことも話すのも忘れないのだった。
「是非共」
「わかりました。ではその時は」
「はい、それでは」
こうした話をしてだった。老人は義正と真理に頭を下げてだ。そのうえでだ。
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