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真田十勇士
巻ノ百二十七 戦のはじまりその九

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「この度は」
「うむ、まずはな」
「そうしてですな」
「楽しむのじゃ、そして間違ってもな」
「自らですな」
「わしが言わぬ限りはな」
「攻めることはない」
「そういうことじゃ」
 こう言うのだった。
「そうしていればよい」
「それで勝てるのですか」
 家康の孫、結城秀康の嫡子であり今は越前松平家の主である松平忠直が祖父である家康に尋ねてきた。
「城を攻め落とさずに」
「そうじゃ、無闇に攻めてもじゃ」
 家康は孫に対して温和な声で答えた。
「落ちぬものは落ちぬ」
「あの大坂城は」
「そうじゃ、だからじゃ」
「兵達で攻めずにですか」
「囲んでいればよい」
「兵糧攻めでしょうか」
 忠直は祖父に怪訝な顔になり問うた。
「それでは」
「あの城には多くの兵糧がある」
「ではそれもですか」
「意味がない、数年は持ち堪えるわ」
 例え兵糧攻めにしてもというのだ。
「我等も疲れ切ってしまうわ」
「そうなるからですか」
「それもせぬ」
 兵糧攻めもというのだ。
「別にな」
「では一体」
「まあ見ておれ」
 孫であるのでどうしても情が入って穏やかに言う家康だった。
「お主は若い、これから戦を学ぶべきじゃ」
「だからですか」
「ここは落ち着いてじゃ」
「敵を囲んだままで、ですか」
「攻めるな」
 絶対にというのだ。
「そうせよ、わしのやり方を見ておれ
「それではですな」
「お主はお主の軍勢の陣でゆっくりとじゃ」
「大御所様の戦の仕方をですか」
「見て学べ、よいな」
「わかり申した」
 忠直は家康に素直に頷いた、これで彼も黙った。
 そしてだ、政宗や景勝達諸将もだった。家康の言葉に素直に従い迂闊に動くことはせず布陣を固めた。
 忠直は己の陣で彼の家臣達に家康に言われた言葉を告げていた。
「その様に言われておるからな」
「だからですな」
「この度はですな」
「大御所様のお言葉に従い」
「動かぬ」
「そうされますな」
「うむ」
 若くはっきりとした声で答えた。
「そうするぞ」
「わかり申した、ではです」
「我等は守っておきましょう」
「そしてそのうえで」
「大御所様の戦の仕方を見て」
「学んでいかれますな」
「そうする、わしはまだまだ若年」
 自分で言う忠直だった、精悍な顔は若々しさに満ちている。
「だからお祖父上のお言葉に従いじゃ」
「そしてですな」
「今は守られますな」
「それも固く」
「そうしていようぞ」
 こう言って守りを固めたまま動かないつもりだった、だが。
 幕府方の布陣を真田丸から見てだ、幸村は会心の笑みを浮かべてその上で彼の家臣達に落ち着いた声で言った。
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