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儚き想い、されど永遠の想い
436部分:第三十三話 鈴虫その十二
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第三十三話 鈴虫その十二

「そう。婆やの手から感じていました」
「温もりをですね」
「そして冬自体がでした」
 そのだ。冬そのものもだったというのだ。
「温かくて。奇麗なものでした」
「そういうものでしたね」
「雪も。空気もとても奇麗で」
 冬の空気は冷たくこそあれ、真理の思い出の中ではその冷たさも消えそして残っているのは何か。彼女は今そのことを話すのだった。
「澄んでいました」
「それが冬にありましたね」
「では私は冬はそうしたものを楽しめばいいのですね」
「旦那様と共に」
 やはり義正だった。彼しかいなかった。
「そして義幸様と共に」
「そうですね。そうすれば」
「憂いは必要ありません」
 真理を包みやすくなっているだ。それはだというのだ。
「必要なものはです」
「楽しみですね」
「そして幸せです」
 その二つだというのだ。
「明るいものだけが必要なのです」
「明るさ。そういえば冬もまた」
「明るいですね」
「白く。澄んだ明るさですね」
「その冬の明るさを楽しまれてです」
 婆やは静かに、優しく話していく。
「冬を過ごされて下さい」
「冬は耐えるものではなく」
「楽しまれるものなのですから」
 真理にとって間違いなく最後の冬になるだ。この冬もだというのだ。
「ですから是非共」
「わかりました。それではです」
「はい、林檎をですね」
「まだありますか。これは」
 そのだ。干し林檎を見ての言葉だった。
「もう少し頂きたいのですけれど」
「はい、すぐにお持ちしますね」
「それと紅茶も」
「アップルティーですね」
「それをお願いします」
 林檎だった。今真理が欲しているのは。
 そしてその林檎についてだ。彼女はこうも言った。
「林檎がここまで美味しいとは思っていませんでした」
「そして色々な食べ方があることもですね」
「はい、思っていませんでした」
 こう話すのだった。
「ですが本当に多く。楽しめるのですね」
「楽しみはここにもありますね」
「あっ、確かに」
 それを言われて気付いてだ。真理はまた微笑みになった。
 そしてだ。その微笑みで言うのだった。
「そうですね。ここにも楽しみはありました」
「楽しみは遠くにあるものではありません」
「身近にですね」
「多くあります」
 こう婆やに話すのだった。
「ですから御気を落とされることなくです」
「そうして」
「はい、春までお過ごし下さい」
 あえて生きる様にとは言わない婆やだった。ここではだ。
 婆やのその言葉を受けてだ。真理もだ。静かに頷きだ。
「では。楽しんで」
「はい、この冬も」
 冬にも楽しみがあることを感じながら。微笑んで応えるのだった。その冬がはじまろうとしていた。

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