第101話 九尾
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幽霊というのは酷く不器用な存在であると私は考える。存在に気付いて欲しいが為に物体を動かす、ラップ音を鳴らしたりして非常に遠回りな方法でしか自分の遺志を伝えることが出来ない。
玩具を動かすもの
写真技術が発達したら勉強して最適な写り方を研究して臨むもの
こっくりさんで呼んでもらう
ひとりかくれんぼを行っているものに行くもの
電話を使うもの
みんな元をたどれば自分の気持ちを伝えたいだけなんだと思う
でもそれは決して幽霊だけでなく生きている人間にも当てはまるのではないだろうか?
好きな人に意地悪してしまう人
親に照れ臭く「ありがとう」が言えなくて悪態をつく人
部下を守るために独断で使用許可を出す上司
長年連れ添った妻に対して「愛してる」といえなくて花束を買う夫
兎角人間は不器用な生き物だと思う。
不器用でないのは幼児やペットだけではないかと思うくらいだ。
そのころがひどく懐かしい。
大好き
おかえり
ただいま
たったその言葉を伝えるために不器用なポルターガイストを引き起こす事と不器用な悪態は似通っていて純粋だった。
もっと声を懸けてやるべきだった
もっと抱っこしてあげるべきだった
もっとご飯を一緒に食べるべきだった
もっと……もっと……したかった
「べき」ではないなこれでは息子を言い訳にした言い回しだ。「したい」……そうこれは息子の為でもなければこの世界の人達の為でもない。
「自分の為」だった。
素直にならなければ最短経路で物は伝わらない。
サソリ……あれだけ小さかったお前が二本の脚で立って歩いているのを見た時は嬉しかった。自分を傀儡にしているのは驚いたし、母さんだって泣いていた。父さんも泣いた。
子供の教育で大切なのは「ほめる」と「叱る」だ。
良いことをしたらほめる
悪いことをしたら叱る
ちゃんと場所と状況を間違えずにほめて叱らなければならない。
面倒だと思っても……タイミングが大事だ。
それが出来なかった……サソリの傍から離れてしまった。
叱る資格もなければほめる資格もない。
でも不謹慎かもしれないがお前が死んでこちらに来ると分かったら親としては恥ずかしいながらも嬉しくて境界まで母さんと行ってしまったよ。
せめて
ただいま
おかえり
を言いたかった。親子としての会話をしたかった。
だがお前はこちらに来なかった。
生まれ変わる資格を捨てて、お前は辺獄に自らの意志で言ってしまった。
「悪い……まだそっちいけねえ」と嘯いて現世からもっとも遠く、もっとも近い地獄に走っていった。
本来であれば親が背負うべき贖罪、原罪をたった独りで背負い込んで……
******
その現象、科学で言う所の誤差……パルス信号で走るノイズのようなモノが二点間で観測された。
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